著者:友松はじめ
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今回ご紹介する本は『社会人として大切なことはすべてリッツ・カールトンで学んだ』です。

この本の著者は、リッツカールトンが日本進出第一号のホテルとしてオープンさせた、リッツカールトン大阪のオープニングスタッフだった、現在は滋賀でレストランバーを経営している清水健一郎さんです。

この本は、今まで紹介してきたどのリッツカールトン関連、クレド関連の本の中でも異端の本だと私は思います。

 

目次
はじめに
第1章 リッツカールトンで学んだ「仕事をする上で大切なこと」
第2章 クレドを通して見つけた「自分の”芯”をもつということ」
第3章 リッツカールトンで経験した「モチベーションを高める環境づくり」
第4章 リッツカールトンを辞めてからわかった「人生で大切なこと」
おわりに

 

異端のクレド本

初版が2013年5月16日。
現在まで約3万冊売れているそうです。
本を読まれないというこの時節柄、1万部売れれば大ヒットと言われるビジネス書、自己啓発書の中での3万部は大ヒットと言えます。

しかも、現在は文庫本になって販売が続いています。
リッツカールトンのオープニングメンバーだったとはいえ、支配人のような肩書きがない梅の著者が書いた本が約7年間も売れ続けるというのは珍しいことではないでしょうか。

私がこの本を読んで、異端と思う理由を簡単に説明したいと思います。
まず著者の清水健一郎さんが現場スタッフであったこと。そして新卒入社だったこと。
この2点です。

支社長や支配人といった肩書きのない当時一般社員だった著者の目線から見た、リッツカールトン大阪、奇跡の5年間はどんなものだったのかが分かります。
そして、上からではなく、クレドが実際一般スタッフの中でどう受け止められて、自由にクレドが使いこなせるまでに成長していくのか?この一般社員からの目線が読めるのが、とても貴重であると思います。

リッツ大阪がオープンして、日本のホテルランキング1位になるまでの5年間は伝説の5年間と言われ、それを支えたオープニングメンバーは伝説のメンバーと言われているそうです。
たくさんの著作を出版する方々もそうですが、当時働いていたほとんどのスタッフの方達はスカウトされ、他の一流ホテルや企業に転職したと言われています。

それだけ当時のスタッフにクレドが身につき、実践できていたということではないかと思います。

 

リッツ・カールトンのエピソード

「NO」と言わないサービス

リッツカールトンではお客様に対して「NO」を使いません。初めてその話を聞いた時、新入社員だった私は、そんなことは不可能だろうと思いました。しかし、リッツで働いてみると、本当に「NOを使わないサービス」が行われているのです。しかも、物理的に無理だと思われることに対してまで。具体的な方法は本文で記しますが、一見不可能に感じるようなことでも、 感動的なサービスに変えてしまう方法を、私はリッツで学びました。

リッツカールトンやクレドのことを書籍などで勉強し始めると必ず知ることになる『NOと言わないサービス』ですが、初めて聞いたときそんなことできるのか? と思ったものですがリッツの中の人も同じように考えるんですね。

そして実際にノーと言わないサービスをどうやって自分の中で整理してやっているかということはこの本を読むと分かるのです。
やっぱり、『本当にノーと言わないサービス』をやっているんだと思ったのが、正直な感想でした。

またこんなエピソードもありました。
職人の世界では、師匠の技を見て盗めと言われますが、リッツカールトンでもそういった風習はあるようです。しかしこのエピソードはちょっと違います。

そんなある日のアイドルタイム(アフタヌーンティータイム)、紅茶をサービスする先輩が、お腹の辺りで持っているトレーの上にティーカップをのせ、ティーポットから紅茶を注ぎ入れました。数日後、私はその時見た先輩のマネをして、紅茶をトレイの上で注ぎ、お客様に提供しました。そしてレストランのバックエリアに戻ってきた瞬間、
「誰がそんなサービスを教えた!」
と、その先輩に怒鳴られました。
「紅茶というのは香りが大切や! 一番香りが立つのは紅茶を注ぐ時だ。その時、お客様の顔よりも下で紅茶を注がなければ、香りを楽しんでもらえないだろ!」
「でも数日前、先輩がしていたサービスですよ」
と私が言うと、
「やかましい!」
と一喝されてしまいました。

先輩に口答えしたから怒られたのだろうと思ったのですが、ここからが違っていました。

その次の日、私を叱った先輩が私を呼び出し、なぜ先輩はトレーの上で紅茶サービスを行ったのかを教えてくださいました。そこには先輩のお客様への配慮がありました。お客様は女性4人グループで、しかも座っていらっしゃった咳はホールの角の、一番奥の席でした。レストランで一番接客のしにくい席です。そして、お客様同士の話に夢中だったそうです。
もし先輩が「お客様の目の前、なおかつ鼻の下の位置で注ぎ入れる」という基本的な紅茶サービスを行おうとしたら、 お客様は気をつかって体を斜めにしたり、少しずれたりしてくださるかもしれません。先輩は、それはお客様の話の腰を折ってしまうような気がして避けたかったそうです。

先輩の行動にはちゃんとこのような理由があったのです。
まだこの他にも実は理由があるのですが、その理由は実際にこの本を読んでみてください。
この経験をした著者の清水さんは、ただ行動を真似るのではなくなぜそうしたのかを考えることが大事なんだということを学んだそうです。

教えれば早いじゃないか。という意見もありますが清水さんは、すぐに答えを教えてしまうと答えを導き出すために考える癖がつかなくなると言っています。

どれも著者自身の体験です。リッツがオープンして、クレドがスタッフに浸透していく過程も知ることができる貴重な本です。
例えば、社内でホスピタリティの勉強会を行なうことになったら、現場のスタッフ用の教材としてこの本を使うというのはいいかもしれません。書かれているサービスやホスピタリティの目線が現場にとても近いのです。

 

まとめ

この本は販売されてから数年の月日が経っていますが、今も形を変えて文庫本として販売され続けています。
リッツカールトンやホスピタリティの著書で有名な、高野登さん、林田正光さん、四方啓暉さん、前田佳子さんは著者の当時の上司です。

伝説の人たちと一緒に仕事をした経験を持ち、特に林田正光さんは滋賀県にある著者のレストランバーの一番最初のお客様でもあります。
著名な著者のリッツカールトン関連の本を読み、ホスピタリティを学んだ後は、現場でクレドが身につくまでの過程。そして、経営者の方には会社にクレドを導入する時の注意点も見えてくることでしょう。

リッツカールトンの現場で、本当にクレドが機能していたとわかる貴重な一冊です。

社会人として大切なことはすべてリッツ・カールトンで学んだ/清水健一郎(著)

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