著者:友松はじめ
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今回は『伝説のホテルマンが説く IT企業のホスピタリティ戦略―ISFnetの成長モデルにみる技術者を営業マンに変える法』をご紹介します。

著者は、CS・ホスピタリティ総合プロデューサーで元リッツ・カールトン営業支配人の林田正光さんです。

この本の初版は2010年1月15日です。
ITとホスピタリティ、似て非なるもの…ではなくて、まったく似ていませんね。
もっとも縁遠いもの。というイメージを持ってしまいます。

今でもそうなんですから、10年前なんてもっとそんなイメージだったことでしょう。
この本は、 実在するIT企業にホスピタリティとクレドを導入するというお話しです。
なぜ、 IT企業にホスピタリティとクレドが必要か?
私も仕事上で、 IT企業の方達と交流があるので読んでいて『あるある』な感じでした。

 

目次
はじめに
序章  IT企業のアスリート、渡邉幸義社長との出会い
第一章 「未来ノート」の新たなページ
第二章  IT企業の信頼づくりのためのホスピタリティ
第三章 ホスピタリティ研修の実際
第四章 クレドの作成
第五章 林田流 ホスピタリティの極意
あとがき

 

林田さんは、別の著書で『今の顧客は賢くなっている』と言っています。
これは、 顧客が様々な企業で上質なサービスや商品の体験をたくさんしているから、ちょっとしたサービスでは感動しない。

サービスや商品は高品質なのが当たり前。というのが基本ですから、サービスや商品のクオリティを上げる努力をしたって、思ったほど顧客の反応が良くないのです。
顧客は感動を求めているので、ホスピタリティを使って感動をお客様に提供しましょう。
感動は何度味わっても飽きないもの。

競合他社との差別化はホスピタリティで実現する。
というわけです。

高野登さんの著書でも、顧客の満足の先には大満足しかない。
仮に大満足させたとしても、その大満足に顧客は慣れてしまうため、次はさらに大満足を与えないと顧客は満足しない。
だから感動を与えることに注力しないといけない。
と言っています。

 

登場するのは実在の IT企業 アイエスエフネットさん

アイエスエフネットさんの紹介文がありましたので引用します。

同社は情報通信システムの設計・施工・保守・コンサルティングなどの業務や、コンピューターシステムの管理・運用、IT技術者(ネットワーク・エンジニア)の育成と、企業へのエンジニア派遣などを行っています。(28ページより引用)

よくある会社ですね。
私は以前勤めていた会社でも、そういう方がいらっしゃいました。
だからこの本を読んで『あるある』と思ったのかもしれません。

そもそも、ITとは無縁そうな林田さんが
アイエスエフネットさんと出会うキッカケは…

「 IT業界では、どの企業も一通りの技術力は持っています。新しい技術なので習得力さえあればすぐに追いつける面が強く、技術では差がつけにくいのです。その中で『いや、うちはちょっと違います』と言えるようになるにはどうしたらいいか。何かで差をつけなければならない。そう思い続けてきたところに、今日林田先生のお話を伺いました。そして『そうだ、もしさをつけられるとするならホスピタリティだ』と思いました。自分が求めていたのはホスピタリティというものだったのだ、自分の会社が今必要としているものはホスピタリティなのだと、気づきました」
聞けば、 IT業界にはホスピタリティはほとんど皆無だということです。(30ページより引用)

この引用文を読んで、ホスピタリティを持ったエンジニアさんがたくさん産まれたら、他の IT企業は嫌だろうなと率直に思いました。
後から私の経験もお話ししたいと思いますが、 IT系の人ってラフというか、どこか一般常識が欠けていても許される、というところがあるんですよね。

 

恐るべし。ホスピタリティを身にまとったエンジニアたち

「前回の研修では、多くのことを学びました。おかげで外出前には身だしなみ、特に足元に注意するようになりました。今日はしっかり靴を磨いてきましたので見てください。それから、 IT業界にとってのホスピタリティとは何かについて、自分なりにじっくり考えてみました。そして、お客様に対して、担当の私が先方の技術レベルに合わせて分かりやすく説明するのは気配りのレベルであって、ホスピタリティではないということに思い至りました。ホスピタリティとは、ご要望に答えるだけでなく、その先、あるいはその裏側にあるものを推量し、それに応えていくことだと思います」(79ページより引用)

靴を磨くというところですでに一味違うエンジニアだなと思いました。
スーツを着た一般女性でも、足元を見ると汚れた靴を履いているというのはよく目にします。意外と足元というのはよく見られてると言いますが、靴を磨くというのはなかなかしない人の方が多いのではないでしょうか。

そして、相手の技術レベルに合わせて分かりやすく説明するというだけでもありがたいことですが、リッツカールトンのホスピタリティのように、お客様の言葉に出さない要望まで感じ取ることができるエンジニアって、特殊技術を持っているだけに周りがほっとかないのではないでしょうか。

実際にアイエスエフネットさんでは、そういうことが起こっています。
ぞうきんを使うエンジニアさんです。

毎日定時に出社し、ネットワークの保守・運用などの業務を行っていましたが、あれは他のエンジニアがしないことをしていました。
帰り際になるとカバンからぞうきんを取り出して 派遣スタッフみんなの机や備品などをふき掃除していたのです。ある時その様子を目撃した上司から「どうして掃除までしているの?」と聞かれて、 N・Hさんは「私たちのサービスは、掃除までやることです」と答えました。これを聞いて感激した上司は「これは N・H さんの愛情がこもったマイぞうきんだね」といい、すっかり評判になりました。やがて他社から派遣されていたエンジニアはカットされていき、全員アイエスエフネットの社員に切り替わったそうです。(84ページより引用)

他社の派遣エンジニアがみんなカットされたとのことですが、彼が雑巾で掃除をしていたのを近くで見ていたはずです。でも誰もそれを真似しなかったということでしょう。真似をしなかった、つまり彼の行動の裏にあるホスピタリティを理解できなかったということだと思います。

それから、これも。
技術は、技術ですから、教えることができます。再現性100%です。
適正はあるとは思いますが、チャンスさえあれば誰でも技術は身に付けられるんですよね。
だけど、身につけられないものもあります。

こうして経験のない人に門戸を開いたことで、経験はないけれど人柄がよく、前向きで常識を身につけた人が業界に入ってきました。最初はマウスをどう動かしたらいいのかすらわからないといった人達だったそうですが、教育を開始すると、スポンジが水を吸い込むように急速に技術を習得し、知識を深めていきました。
技術さえ身につけてしまえば、もうこちらのものです。何しろ相手は技術だけで一般常識に欠けた人達ですから、一般常識があり、技術も身につけた同社のエンジニアたちは、顧客先に派遣されてもすぐに頭角を現し、喜ばれるようになりました。(84ページより引用)

技術をつければこっちのものって…本当にそうですね。一人勝ちですね。
アイエスエフネットの社長さんの狙い通りです。

買って私が勤務していたリッツカールトンでも、六〇〇人採用するところに四〇〇〇人の募集がありました。ホテル業界で働いていた転職組が多いですが、いくらホテルの経験が豊富でも、採用されるとは限りません。採用者がもっとも見ているのは、やはりその人の人間性なのです。技術やコツは指導すれば身につきますが、人間性や人柄というものは一年や二年では変わるのはむずかしいので、やはり教育の成果が見込めそうな人を採用することになるのです。(87ページより引用)

技術はチャンスがあれば誰でも身につけることができます。
でもこの引用文のように、人間性や人柄は1年や2年で変わるのは難しいです。アイエスエフネットさんでは、前向きで常識を身につけた人を積極的に採用することで、同社にある教育カリキュラムで一人前のエンジニアに育てているんですね。

そしてこの本でも紹介されているアイエスエフネットさんのクレド守って、ホスピタリティ力をつけてクライアントさんに派遣されていく。
IT業界で同業他社からは、脅威の存在ですよね。

 

まとめ

アイエスエフネットさんがキッカケなのかはわかりませんが、クレドを導入している企業を定期的に検索して調べているのですが、 IT企業のクレド導入が最近とても目につくようになった気がします。

仕事柄 IT企業の経営者の方や社員さんが集まる交流会に参加させてもらうことがあるのですが、普通の異業種交流会と違い皆さんほとんど私服です。私服と言ってもほぼカジュアルです。髪型は男性でも長髪、茶髪、金髪、ピアス、髭。

女性も皆さん個性的で思い思いのファッションをしています。髪の色も様々です。
キーボードが打てるのかと思うほどのメールをしている人もいます。
自由です。

かっこいい業界、おしゃれな業界、自由な業界、そういうイメージを具現化してるように思います。しかし、この本にも書かれていましたが、クライアントさんたちは自分たちになり技術や情報を IT企業の彼ら彼女らが持っているから仕方がない、そういうものだということである程度市民権を得ているというのがあるわけです。

そこに、アイエスエフネットさんのような一般常識を持ちそしてホテル業界のようなホスピタリティを持ったエンジニアさん達が現れたら一体どうなるでしょうか?
多分、私が社長なら今いるエンジニアは契約解除して、全てアイエスエフネットさんのエンジニアに切り替えます。

今回引用させていただいた『マイぞうきん』の上司のような感じですね。
林田さんはこの本で『紙一重の違い』と言っていましたが、差別化! 差別化! と言うなら、この本にその答えがあるような気がします。

伝説のホテルマンが説く IT企業のホスピタリティ戦略―ISFnetの成長モデルにみる技術者を営業マンに変える法/林田正光(著)

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