1枚の「クレド」が組織を変える!/実島誠(著)の紹介
今回ご紹介する本は『1枚の「クレド」が組織を変える』です。
クレドを題材にした本は何冊もあります。
しかし、この本はクレドを通じて生まれた感動的なサービスなど紹介する本ではありません。
クレドを具体的に、どのように作り、導入して、浸透させたらいいのか? 自分の会社やお店のクレドを作りたいと思っている方に向けて、クレドの作り方からクレドの導入、そして会社やお店への浸透の仕方をわかりやすく解説してくれる数少ないクレド本の一冊です。
この本の初版は、2015年7月ということで比較的まだ新しいクレド本と言えるでしょう。
リッツ・カールトンが、日本進出第1号のホテルを大阪にオープンして、約5年で日本のホテルランキングのトップを取った時、リッツ・カールトンの名前と一緒にクレドも有名になりました。
その後たくさんのリッツ・カールトンやクレドに関する本が出版され、クレドブームが起きました。今書店に並んでいるクレドの本の出版年月日を見てみるとだいたいその頃の年代の本が多いです。
しかしこの本の初版は2015年です。
これには理由があります。
この著者の実島誠さんは、リッツ・カールトンの勤務経験はありません。
実島さんは、トリプルグッド税理士法人を経営する税理士であり経営者です。
1997年10月に、税理士事務所を創業しましたが、経営はうまくいきませんでした。会社経営に悩んでいた時期とリッツ・カールトンやクレドが注目されるようになった時期がちょうど重なっていて、実島さんはそのブームを目の当たりにします。そして自分の事務所でもクレドを導入しようと決意します。
そして試行錯誤して、ご自分の事務所でのクレド導入を成功させるのです。
この経験をもとに、中小企業にクレドの普及を目的とした『一般社団法人日本クレド経営協会』を設立します。
実島さんの会社は、2014年2月に行われた、働きがいのある会社ランキング従業員99名以下の企業部門で日本第1位となっています。そして2014年2月、一般社団法人会計事務所甲子園が主催する、第1回会計事務所甲子園決勝大会で日本一の会計事務所になっています。
このような実績と経験を経てこの本が書かれています。
リッツ・カールトンやジョンソン・エンド・ジョンソンに関連する本は、ほぼその会社の OB、OG の方が書かれている場合が多いです。その中で全く関係のない方が書いている本で、ここまで具体的なクレド導入の本は珍しいのではないでしょうか。
目次
プロローグ:クレドで会社は生まれ変わった!
第1章:クレドとは何か?
第2章:クレドを支える価値観と働く目的
第3章:なせ、クレドによって業績が向上するのか?
第4章:事例編-各社のクレドに学ぶ
第5章:クレド作成から導入までのポイント
第6章:クレドの運用
あとがき
この本を読むことで得られるメリットについて
それでは『1枚の「クレド」が組織を変える』読むメリットについてお話ししたいと思います。
なぜクレドが必要なのかが分かる
クレド導入の効果が分かる
クレドの内容、構成、構造が分かる
以上の三つです。
クレドは一体何なのか、クレドを導入するとどんな効果があるのか、正体不明のクレドはどんな内容、構造なのか、実際にクレドを導入してみたいと考えている人にとってメリットの大きな本だと私は思います。
クレドとは?
クレドとは何でしょうか?
どの本にも書かれていることが、この本にも書かれています。
クレドとはラテン語で『信条』を意味する言葉です。しかし今、クレドは企業のミッションや行動指針をまとめてカード形式にしたものを『クレド』と呼んでいます。
そして、新種のマニュアルのようなものと思われがちですが、マニュアルでもありません。
これは、どのクレド関連の本でも共通した説明ですね。とくに特別な新しい意味はありません。
この本でも、クレドはマニュアルじゃないと言っています。
日本の企業はマニュアル文化なので、どうしてもクレドもマニュアルのようなものと思われがちですがそうではありません。社是や社訓そして経営理念のように、額に飾って毎日朝礼で唱和するようなうやうやしいものでもありません。
クレドは、会社の社是、社訓、経営理念をもっと分かりやすく、行動しやすいようにしたものです。それをいつでも見やすく、携帯しやすいカード形式にして、迷った時にすぐ見て確認できるようにすることに意味があります。
クレドは普遍的なその会社組織の価値観です。社員がそれぞれに持っている価値観に訴えかける内容になっていなければなりません。自分の頭で考えて行動してもらう、本質的なものが書かれていなければなりません。
クレドの構造、構成
クレドの構成についても書かれています
リッツ・カールトンに行けば、クレドカードをもらえます。そしてネットを検索すれば、クレドカードも公開されています。
また最近ではクレドを導入した会社がホームページに、自分たちのクレドカードを公開していますので、クレドがどんな構造をしているものなのか、クレドカードには何が書かれているのか、ということは、ちょっと調べれば簡単に分かる時代になりました。
本書ではクレドカードの構成をこのように説明してくれています。
1.ミッション
企業の存在価値を表現します。
ミッションには企業がなりたい理想の姿が書かれています。ミッションがないとそれは目的地を設定せずに航海に出るようなものだと著者は言っています。
2.ビジョン
ビジョンは目標です。ビジョンはミッションと同じ内容で良いという人もいます。けれど著者はミッションは具体的な目標にしなければならないと言っています。
例えば 売上100億円とか、新規出店1万店というように具体的に表現するのがいいそうです。
企業はボランティア団体ではないので、素晴らしいミッションを掲げたら、具体的な目標も持たなければ、経営はうまくいかないと言っています。
著者が、ミッションとビジョンの関係について、本書の中で二宮尊徳の言葉を引用しているのでここでも引用します。
<BLOCKQUOTE>
道徳なき経済は罪悪、経済なき道徳は戯言
</BLOCKQUOTE>
著者は、道徳がミッション、経済がビジョンにあたると教えてくれています。
3.バリュー
バリューは価値観を意味しています。
バリューの意味はミッションを達成するために必要な要素です。
クレド全体を行動指針という場合があります。しかしクレドは行動指針ではなく、このバリューが社員やスタッフさんたちの具体的な行動指針にあたると本書では言われています。
クレドが無いと問題が発生した時に、すぐに対応することができません。
上司に相談して、指示を仰ぐまで待たなければならないことも多々あります。もしお客様からのクレームがあった時でも、その場ですぐにお客様の対応ができず、お待たせしてしまい、さらにクレームを悪化させるということはよく聞く話です。
また、社員の能力に頼った業務になっている会社もあります。
その場合、もし仕事ができる社員が辞めてしまった場合、業績は落ち、またゼロからのスタートになります。もしかしたらお客様も持っていかれるおそれもあります。
しかし、行動指針であるバリューがあれば、社員は仕事で迷った時上司に確認することなくバリューを確認して自分ならどう行動するか、どういう対処するかを考えて即行動ができるようになりますし、実際そういった事例も多くあります。
ですからバリューは、ミッションのような内容ではなく、より業務に近い具体的な内容にするべきです。バリューは具体的であればあるほどいいようです。
本書の説明するクレドの構成は 以上です。
本書のクレドは。、ビジョンとミッションとバリューの3点セットで構成されています。
クレド導入の効果
クレドの効果についても具体的に企業名を挙げた紹介もあります。
クレドを導入したらどんな効果があるのか気になっている方には、読み応えのある本だと私は思います。
特に、著者自身がゼロからクレドを学んで、自分の会社にクレドを導入して成功させた、他にはない大きな成功事例があるので、読んでいるとクレド導入への興味がさらに増してきますよ。
ちなみに、著者の会社ではクレドを導入した後、年20%の業績アップをずっと続けているそうです。すごいですよね。
確かジョンソン・エンド・ジョンソンもクレドを導入した後、一度も業績を落としていないと聞いたことがあります。
新しい試みをやるのであれば、人材育成も業務改善も大切ですが、やはり業績がアップしないことには企業は存続できません。ですからクレドを導入して業績が上がったという事例を聞くのは本当に心強いですよね。
実際の事例は、本書を読んでもらうとして、プロローグで書かれた著者自身のクレド導入体験は必読です。本当にクレド導入に対して勇気がもらえます。
また実際に、著者が導入の支援をしたのでしょう、 導入の事例として六つの企業が紹介されています。
1つは著者自身の会社。
その他5社は著者が、導入のサポートをした企業が紹介されています。
クレドを導入することで、どんな効果があったか残念ながらこの5社の紹介では書かれていませんが、ミッション、ビジョン、バリュー。そしてクレドカードを公開してくれていますので、クレド導入を考えている経営者の方には参考になる貴重情報だと思います。
この本を書いた著者自身がクレドを導入して大きな実績を上げて、具体的な効果の内容も書いてくれていますから、それだけでもクレドの効果として十分な情報だと思います。
このような具体的な数字まで書いたクレド導入の本は、なかなかありませんからね。
そうそう、クレドの導入でこんなことも書いていました。
カリスマ経営者は、みんなが驚くような売り上げを出して注目されますが、カリスマ経営者がいなくなれば、会社は業績を落とすか無くなってしまう。
そうならないために、クレドをカリスマにしてしまえばいいのですと書かれていました。
確かにクレドをカリスマにしてしまえば、経営者が代替わりしても影響は無さそうですよね。
クレド導入の手順
この本では、クレドの具体的な作成方法や導入浸透方法についても書かれています。
クレドの導入は、ポイントを押さえれば失敗はしないと著者は言っています。
では、それはどのようなポイントはこの2つです。
経営者が強い意志を持って絶対に途中でクレドの導入をあきらめない覚悟を持つこと。
経営者が勝手に自分の理想でクレドを作るのではなく、必ずボトムアップで作成をする。クレド導入のプロジェクトチームを作る。
それから、説明がないと作成するのが難しい、ミッションやビジョン、バリューについても作成するポイントが書かれています。
クレドとはどういうものなのか、クレドはどういう内容でできているのか、そしてクレドを導入すると、どんな効果があるのか。
こういったことの説明に本書のほとんどが費やされています。
本全体の割合でみると、クレド作成の説明はわずかです。
つまり、これはクレドの作成が簡単だということではないかと私は思います。
でも、クレドの作成が簡単だからこそ、大事になってくるのが『クレドの運用』だと著者は言っています。
さらに言うと、クレドは作成よりも運用がとても大切。
何か新しいことを導入しようとすると…
「また社長が何か新しいことを始めた、嫌だな」
と、社員は思うものです。
クレドカードを社員全員が持っていても、全くクレドが活用されていないという会社も多いと聞きます。クレドを作ったら、クレドが会社や経営者や社員やお取引先、そしてお客様に浸透するような仕組みを導入しなければならないのです。
これは他のクレドの本でも共通した部分でした。
私がこの本を読もうと思った背景
私がこの本を読もうと思った背景を少しお話したいと思います。
リッツ・カールトン関連の本は、たくさん出版されています。
クレドに関する本もたくさん出版されています。
しかし、ほとんどの本は、仕事で大切なこと、サービスの仕方、ホスピタリティ、おもてなしについての内容になっていると思います。
もちろん、それが悪いわけではなく、接客業やサービス業に携わる人たちにとっては、サービスレベルを上げるためのとても貴重な本です。ただ、経営者にとってスタッフたちのサービスレベルが上がるのはもちろん嬉しいことだと思いますが、クレドの作り方、導入方法、浸透方法を知りたい経営者も多いと思うのです。
そんな中で、この本はクレドの作成方法や浸透方法について書かれている貴重な本の1つでしたので今回紹介しました。
日本では、年間8万冊の新刊が出版されています。
1日に換算すると200冊の新しい方が、毎日世に出ていることになります。
ですから、何か紹介するキッカケを作らないと、どんなにいい本でも一生出会うことがない場合も多いのです。私も仕事柄、沢山のクレドの本を読んでいますが、まだまだ知らない本がたくさんあります。
ですから、お節介を承知でこれからも沢山のクレドの本を紹介していきたいと考えています。
私が『1枚の「クレド」が組織を変える』を今回紹介するわけ
私が『1枚の「クレド」が組織を変える』を今回紹介する理由は3つあります。
クレド導入の効果がわかる
導入の仕方そして浸透方法が学べる
会社経営に苦しんで実際にクレドの導入を成功させた本人がこの本を書いている
これが、私がこの本をおすすめする3つの理由です.
1.クレド導入の効果がわかる
たくさんの本や雑誌、ネットからクレドの成功事例を見聞きして、クレドのことが気になっている人は多いと思います。実際に自分の会社やお店に導入してみたいと考えている人も多いのではないでしょうか。
でも、クレドは新しい仕組みです。
そのため、よく分からない状態でいきなりクレドの導入を始めるわけにもいきません。
予想もしないトラブルも出てくると思います。ですから、この本を読んでクレド導入後の効果を学ぶというのは、クレド導入を目指す方にとっては大きな力になるはずなのです。
2.導入の仕方そして浸透方法が学べる
クレド導入を考えた時、クレドを導入してみたが効果は無かった。失敗した。
リッツ・カールトンだからうまくいったんだ。
といったネガティブな情報も見聞きします。
具体的にどうやってクレドを導入して浸透させていくか? という情報は少ないのが現状です。
高額なコンサルティング費用を払って導入を成功させている企業も多いようです。
しかし私は、費用をかけなくても導入できるのがクレドの良いところだと思っています。
そのクレドの導入方法や浸透方法が具体的に書かれているのがこの本なのです。
この本を読むことで、どうやってクレドを作って導入していくのかが具体的にイメージできるようになると思います。
3.会社経営に苦しんで実際にクレドの導入を成功させた本人がこの本を書いている
私が一番おすすめする理由です。
この著者の実島さんが、実際に自分の会社の経営で苦しんで、まだ情報が少なかったクレドの導入を自分で試行錯誤しながら導入に成功した。
その方法をまとめたのがこの本だからです。
ビジネス書の醍醐味は、実際に著者が経験して学んだ貴重なノウハウを一冊の本から学べることです。読むだけでも臨場感が伝わってきて読み物としても面白いです。
何よりも読み終わった後、具体的にクレドのことが分かっている状態になれます。おすすめです。
まとめ
今回は『1枚の「クレド」が組織を変える』という、クレドリッツ・カールトン関連の本では珍しく、クレドの作成、導入について書かれた本を紹介しました。何度も言いますが、この本の著者はリッツ・カールトンやジョンソン・エンド・ジョンソンとは縁もゆかりもない方です。
しかし、リッツ・カールトンが注目されることで日本中に広く知られるようになったクレドを私たちと同じように知った。
そして自分で創意工夫をして自分の会社に導入して成功された方です。
その経験を実際に聞くだけでも大変参考になりますが、このように本にして具体的にクレドの作成方法や浸透方法について書いてくれています。
本の内容自体は軽妙で2時間もあれば読んでしまえる内容です。
実際にクレドを導入するしないは別にして、クレドとはどんなものか、クレドを導入するとどんな効果があるのか、実際にクレドを作るにはどうしたらいいのか、こういったことに少しでも興味のある方は手にとって読んでみることをお勧めします。
いい本です。
クレド関連書籍一覧
- ESクレドを使った組織改革―小さな会社だからこそ、できる! 社員の気持ちを仕事に向ける、ちょっとしたシカケづくり/日本ES開発協会、中筋 宣貴(著)
- あらゆることが好転していくご挨拶の法則/林田正光(著)
- サービスの手帳 心のこもったおもてなしを実現する/林田 正光
- ゴールド・スタンダード/ジョゼフ・ミケーリ(著)
- スターバックスのライバルは、リッツ・カールトンである。 本当のホスピタリティの話をしよう/岩田 松雄、 高野 登
- ブランドづくりの教科書/林田 正光
- ホスピタリティの教科書/林田 正光
- クレドが「考えて動く」社員を育てる!/吉田 誠一郎 (著)
- リッツ・カールトン – 「型」から入る仕事術/高野 登 (著)
- リッツ・カールトン 至高のホスピタリティ/高野 登
- リッツ・カールトン 超一流サービスの教科書/レオナルド・インギレアリー、 ミカ・ソロモン
- リッツ・カールトン20の秘密―一枚のカード(クレド)に込められた成功法則/井上 富紀子、 リコ ドゥブランク
- リッツ・カールトンたった一言からはじまる「信頼」の物語/高野登
- リッツ・カールトンが大切にするサービスを超える瞬間/高野登(著)
- リッツ・カールトンで学んだ仕事でいちばん大事なこと/林田 正光
- リッツ・カールトンで学んだ超一流のおもてなし/高野登(著)
- リッツ・カールトンで実践した 働き方が変わる「心の筋トレ」/高野 登
- リッツ・カールトンで育まれたホスピタリティノート 人の心をとらえて離さない!/高野登
- リッツ・カールトンと日本人の流儀/高野 登(著)
- リッツ・カールトンの究極のホスピタリティ/四方啓暉(著)
- リッツ・カールトン一瞬で心が通う「言葉がけ」の習慣/高野登(著)
- リッツ・カールトン元支配人が学んだ一流のホスピタリティ心得―マニュアルではなく体験で身につける大事なこ/林田 正光 (著)
- 伝説のホテルマンが説く IT企業のホスピタリティ戦略―ISFnetの成長モデルにみる技術者を営業マンに変える法/林田正光(著)
- 伝説コンシェルジュが明かすプレミアムなおもてなし―お客様の望みをすべてかなえる方法/前田 佳子
- 伝説ホテルマンだけが知っている!サービスで小さな奇跡を起こす方法/林田 正光
- 品格を磨く/高野登(著)
- 図解版ホスピタリティの教科書/林田正光(著)
- 大切なことはすべてクレドーが教えてくれた/片山 修 (監修)
- 心のこもったおもてなしを実現する サービスの手帳2/林田 正光 (著)
- 日本的クレド経営のすすめ―賢い会社になって21世紀を勝ち・伸びる/服部 吉伸
- 最高のサービスを実現するリーダーシップ リッツ・カールトンの流儀/エドウィン・D・フラー
- 社会人として大切なことはすべてリッツ・カールトンで学んだ/清水健一郎(著)
- 絆が生まれる瞬間ホスピタリティの舞台づくり/高野登(著)
- 頂点のサービスへようこそ リッツ・カールトンVs.ペニンシュラ/桐山 秀樹 (著)
- 1枚の「クレド」が組織を変える!/実島誠