著者:清水健一郎
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mistique

リッツ・カールトンと言えば、ミスティーク・サービスが有名です。
ミスティークとは、「神秘性」。
少しあいまいな表現に感じるかもしれませんが、感動を生み出すサービスのもとになる考え方の一つです。

しかし、この「ミスティーク」なサービスを真似しようとすると、思わぬ落とし穴にはまってしまうことがあります。

そこで今回ご紹介したいのは、ミスティーク(神秘性)なサービスを実践する際の注意点です。

まず、以前のこちらのコラム(最高レベルのサービスを実現させるための根底にあるもの)でも紹介させていただいたリッツのサービスの基準の1つであり、最高のサービスであるミスティーク(神秘性)について触れましょう。

1.インフォメーションサービス(お客様にインフォメーションされて提供する)

2.インテリジェンスサービス(お客様が欲しているのをインフォメーションされる前に提供する。)

3.リッツ・カールトンミスティーク(お客様自身が欲している事に気付いていない。提供されて、初めてお客様自身も欲している事に気が付くサービス)

ですね。

このミスティークサービスを実践するためには、リーダーシップ、スタッフに与えられている権限や心意気、サービスを実践できるシステムや社内のチームワークなど、ミスティークを実現するために、本来それら1つ1つを紹介し理解していただきます。

しかし、そんなミスティークを実践する際の注意点があるのです。

ミスティークなサービスを提供するリスク

その注意点が、書籍「ゴールドスタンダード」の中で、実際にリッツ・カールトン内で起きた失敗を出して紹介されています。

リッツ・カールトンのスタッフは、

  • 絶えず良いサービスを提供する。
  • ミスティークを実践する。

と言う意識を持っています。

そんな、高ぶった意識からくる思い込みで、本当のお客様の姿が見えなくなっていたり、初対面のお客様に過度な期待を持たせてしまい、ガッカリさせてしまった実話を紹介されています。

例えば、メキシコのリッツ・カールトンに滞在されたお客様が、いつもお部屋でマリアッチの音楽を聞いていたので、プレファランス・パッド(お客様情報カード)に「お客様の好きな音楽はマリアッチ」と記入したことにより、このお客様がフィラデルフィアのリッツ・カールトンに泊まった時には、部屋に入るとマリアッチの曲で迎えられるようになった。ところが、お客様がマリアッチを聞いていたのは、メキシコの雰囲気をより楽しむためであり、特別好きなわけではなかったのです。

リッツ・カールトンの目指す最高のサービス、ミスティーク(神秘性)は、複雑で難しい。
そして、そんなサービスに絶えず挑戦していく。と言うのはリッツという組織が出来上がっていたとしてもリスクが伴うもの。
ほんのちょっとしたボタンの掛け違い、スタッフの無意識の思い込みや感情が、ずれを生み出すことがあるからです。

かといって、リッツでしかできない、「ミスティーク」サービスをお客様が求めているのも確かです。

ですから、リッツでサービスを実践する。と言うのは難しくもあり、やりがいにも感じると、私がリッツ在籍中、何度も感じました。

「ゴールドスタンダード」の著者のジョゼフ・ミケーリ氏は、

実際、自分の好みを知られたり、記録されたりするのが嫌いなお客様もいる。個人の好みを追跡することは、細心の注意を要する困難な取り組みだ。お客様のプライバシーを尊重しながら、お客様がどの程度ならしられてもかまわないと思っているのかを見極めなくてはならない。

と書いています。
これは、リッツのミスティークだからではなく、サービス業に従事する者すべての基本だと私は思います。

そして、クレドを浸透させ、ラインナップを毎日行うリッツですら、リスクを持って取り組んでいるもの。
このような仕組みがなければ、そのリスクは飛躍的に増大します。

1.インフォメーションサービス(お客様にインフォメーションされて提供する)
2.インテリジェンスサービス(お客様が欲しているのをインフォメーションされる前に提供する。)

を超える、

3.リッツ・カールトンミスティーク(お客様自身が欲している事に気付いていない。提供されて、初めてお客様自身も欲している事に気が付くサービス)

を提供するためには、必ずクレドとラインナップがセットであることを、ぜひ念頭に置いていただければと思います。

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