著者:清水健一郎
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ザ・リッツ・カールトン・ベーシック7番

クレドを支えるベーシック

 

リッツ・カールトンのクレドに書かれていたベーシックに焦点を当ててみましょう。

今は、バリューと名を変えて存在しているそうです。

私の在籍中には、クレドカードには、クレド、サービスの3ステップ、モットー、従業員への約束、そして、20個のベーシックが書かれていていました。

 

クレドカードの内容は、何度も何度も読み返しました。

もちろん、ラインナップ(リッツ式朝礼)の際に、読み上げて、読み上げたところについて、参加しているスタッフ全員でディスカッションしていましたが、この20個のベーシックの役割、書かれてある内容よりも、その奥にある意図を考えてみましょう。

 

今回、なぜベーシックが存在し、その意図を考えるに至った経緯は、クレドを作成するうえで、ベーシックはとても重要だと理解しているにもかかわらず、クレドが作れても、次にクレドを支えるベーシックを作る事に頭を抱える事が多いからです。

 

しかし、リッツのベーシックをお手本として、そのベーシックの意図を理解していけば、その意図に添ってベーシックが作られていくからです。

では、今日はベーシックの5に書かれている内容の奥にある意図を考えていきましょう。

 

ザ・リッツ・カールトン・ベーシック7番

7.誇りと喜びに満ちた職場を作るために、すべての従業員は、自分が関係する仕事のプランニングに関わる権利があります。

 

よく「仕事」は、自分から進んで取り組んでいくもので、上から言われた通りに動くのは「作業」だと言われます。

誇りと喜びに満ちた職場を作るためには、従業員が仕事をしていなければなりませんね。

つまり、プランニングに関わっていかなければ、仕事をしていると言えず、誇りと喜びに満ちた職場を作る事ができないと思います。

 

私がリッツ在籍中、新卒でまだ20歳だった時、1からプランニングし作り上げたシステムがありました。その時のエピソードをご紹介します。

 

当時の私の主な仕事であった朝食ブッフェでのエピソードです。

(以下清水の著書から抜粋)

 

当時ホテルの朝食の要であったこともあり、毎日のように変更がありました。総料理長1名、副総料理長2名、レストランの料理長1名の計4人の料理長がブッフェの様子を見に来られて、4人が4人とも別の指示を出したこともありました。

 

ブッフェの仕事は大忙しです。料理がなくなる前にキッチンにオーダーを通し、少なくなった料理があれば継ぎ足します。パン、ジュース、ミルクの補充も欠かせません。

ブッフェ台の一部に鉄板焼きの台があり、料理人がお客様のために、お好みの目玉焼きやオムレツ、パンケーキ、ワッフルを焼くというサービスもあったので、その注文をとったり、でき上がった料理をお客様のお席にお持ちしたりすることもありました。

 

また、料理人のアシスタントとして厨房に材料を取りに行ったりもしながら、混み合っている時には朝食時だけで1人で300人のお客様の対応をしていました。

 

そんな環境の中で、私は「いつもお客様にできたての料理をブッフェで提供する」を自分のコンセプトに決め、厨房にあった補充用のお皿の置き場をブッフェ台の下に変更したり、リネンカート(使用済みのテーブルクロスやナプキンを入れる車輪付きの台)をランドリーから多めに借りてきて、それをバックエリア用のパンの補充台として使用してみるなど、ありとあらゆるものを利用して効率化を図っていました。

 

そのため、上司やシェフたちから叱られることもしばしばありました。

「リネンカートの上にパン置いてんじゃねー!」

など、何度お叱りを受けたか分かりません。

 

しかし、それにめげずに繰り返していくうちに、叱られるポイント、褒められるポイントがだんだん分かってきて、叱られる回数は少なくなっていきました。

もちろん、これから実行しようとしているアイデアを事前に相談すれば、叱られることはなかったでしょう。

 

しかし、4人の料理長に相談し承諾をしてもらっていては実行まで時間がかかってしまいます。また、仮に1人が承諾してくれても、あとの3人が却下するということもありえます。それが原因で料理長同士の間で確執が生じるよりも、新人の私が叱られて、すぐ実行できるのであれば実行してしまおう、と思っていました。

 

そして、気が付けば、このブッフェに関しては、新卒20歳だった私がほぼやり方を決め、他のスタッフにも伝えて私のやり方を実行してもらっていたのです。

 

先輩や上司は、

「ブッフェは清水に任せた。やりたいようにやれ!」

と私に全てを任せてくださいました。

 

そして、いつの間にか私のアダ名は“ブッフェ隊長”になっていました。

ブッフェ隊長、すなわち「ブッフェリーダー」です。

「いつもお客様にできたての料理をブッフェで提供する」をコンセプトに、失敗し、あれこれ叱られながらも努力していたことをみんなが認めてくれたのです。

 

人に全てを任せる、ということは、意外に勇気がいることです。全てを任せた部下が失敗してしまったとしたら、責任をとらなければいけないのは任せた上司だからです。上からは叱られ、自分も、部下を叱るというあまり楽しくないことを行わなければなりません。それくらいならいっそ、「自分で全てをやってしまった方が、気が楽だ」、と思われる方もいらっしゃることでしょう。

 

しかし、リッツでは、新人だった私を信頼し、全てを任せてくれました。

私の、たとえ叱られてもいいから、お客様のために誰もやらないことをやろう、という思いを汲み取ってくれたのです。地位も肩書きもない私を、間違えば叱りながらも、決して仕事をとりあげるようなことはしませんでした。

 

小さなことでも、何も分からない新人であっても、その人が責任を取る覚悟を持って夢を語っていたら、リーダーを任せてあげてください。

 

あなたの職場、会社で働く従業員は、仕事をしていますか?作業になっていませんか?

プランニングをワンマンで決めていませんか?

誇りと喜びに満ちた職場を作るためには、従業員が仕事をしていなければなりませんね。

ベーシックで定期的に確認してみてはいかがでしょうか?

 

 

【編集後記】

クレドを研究している友松です。

本日の清水先生のコラムはいかがでしたか?

 

私は会社員時代も今も部下を持って仕事をしたことがありません。

なので今日のコラムはよくわかりません。

しかし、部下としての仕事で考えるなら、まかせてもらえるのはとても安心感や充実感、そして責任感が育ちますね。

 

そして叱っても、まかせてくれる。

仕事を取り上げたりしない。

クレドをベースに鍛え上げられているのはスタッフだけじゃない。

 

上司も先輩も、クレドで育っているんですね。

今まで経験した会社では、人は育っていただろうか。

ふと思い返してしまいました。

 

著者/清水健一郎

清水健一郎 ザ・リッツ・カールトン日本進出第一号ホテル、
ザ・リッツ・カールトン大阪のオープニングスタッフとして入社。身をもってクレドを実践する。
リッツ卒業後、数社のホテル、小規模飲食店をクレドによって立て直し、クレドがリッツ以外で経営に役立つことを証明する。
その後、オーナーサービスマンとして飲食店を開業。自ら経営者となる。

2013年に、これまでの経験を活かし出版した書籍が、ビジネス書では異例の2万5千部の販売を記録するヒットに。
失敗しない、小予算でできるクレド導入法を開発し、クレド導入を考える経営者や管理職の方へ無料レポートやクレド導入マニュアルを提供している。

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