著者:清水健一郎
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職場と社員・従業員の理想の関係というのは、いったいどういうものでしょうか?

もちろん、業種や人数・規模によって変わってはきますので、1社1社違うものですが、根本的に共通するものがあります。

それは、個人としての人間的成長、という部分。

職場は、この「個人の人間的な成長」を促す場であり、その「場」で成長した個人が会社の成長を支えていく。
こういった循環が、一つの理想であると思います。

そんな理想を、実際に私に体験させてくれたのも、またリッツでした。

大きく成長するきっかけを提供する

何度か引用させていただいている「絆が生まれる瞬間」(高野登氏著)では、

人は誰でも、新しいことに挑戦しながら成長していくものです。一人ひとりの独創性や、自由闊達な議論から生まれてくる発想が生かされる職場。そこからさらに新しい感性が芽生え、育っていく。
社員の「パーソナル・グロース(個人としての人間的成長)」これが会社にとっての喜びである。その事が社員に実感として伝わるためにも、深い信頼関係に裏打ちされた職場という舞台づくりを心がけなくてはならない。

と書かれています。

私も同意です。そして、実際にそういった経験もしました。
私がリッツ・カールトン在籍中のことです。

私の入社2年目で21歳の時、とある大企業(日本でも有数の大企業です。)の会長K様のご家族をスイートルームで接客させていただいたときのエピソード。

K様の奥様が末期癌で、残り少ない余生を家族と一緒に過ごすため退院され、リッツの最上階プレジデントスイートに一週間滞在されました。

滞在中、毎日、各レストランのシェフと主任クラス以上のサービススタッフがルームサービスのスタッフと共にスイートルームでディナーをサービスし、滞在最終日、私が所属していたレストラン「スプレンディード」の番がきました。

そこで、福井シェフ、ルームサービススタッフの脇谷君、そして、私の3人で行いました。

シェフは裏方で料理、脇谷君もルームサービスのノウハウをいかしてレストラン厨房からスイートルームまでスムーズにサービスできるように必要な物を私に渡していきます。

なんと、お客様最前線は社会人2年目の私でした。

お客様滞在中、それまで接客していたスタッフは、ベテランばかり、しかもサーブするワインはロマネコンティ(世界で一番高額なワイン)だったのです。
どのホテルでもレストランでも、新卒入社2年目の若者に、こんな重要なサービスでロマネコンティのサービスをさせるなど聞いたことがありません。

緊張はしましたが、日頃おこなっているサービスを淡々とおこないました。

この日から数日後、奥様が亡くなられました。

そして、また数日後K会長がスプレンディードのカウンターに、お一人で来られ「あの時は、お世話になりました。」と私をカウンターに呼んで御礼をいただきました。

その時、色々な感情が込みあがってきました。

「あの時のサービス本当に私でよかったのか?」
「もっと、より良いサービスがあったのではないか?」
「経験の少ない私では、気付けていない心遣いがあったのではないか?」

当時の私には、自信や誇りに繋がる経験と言うより、自分のサービスに対して疑問ばかりが出てきた経験だったと思います。

そして、このサービスに「清水、行って来い。」と、言ってくださった当時のマネージャーである大原さんからの一言。

「たった一回のサービスが、一瞬のサービスが、サービスを受けた人にとって、時に一生のものになる事がある。今回の経験でわかったろう。覚えとけ」

サービスした私も一生ものの経験となりました。

「行って来い」と言えるか

あの時、私に「行って来い」と言ってくださった大原さんには感謝していますが、当時の大原さんの立場に私がいたら、とても「行って来い」とは言えなかったと思います。
大原さんの大きさには、まだまだ足元にもおよびません。

しかし、この大原さんの行動の原点にも、クレドがあり、そしてリッツという「職場」があってのこと。

私が大原さんに認められて、このようなサービスを任してもらえたのも、そうした環境の下、私の日々のコツコツとした仕事への取り組みを大原さんが見ていてくださったからです。言い換えると、見ていて下さるような職場作りができていた、ということですね。

その当時の私の仕事と言えば、小さくて地味な仕事が多く、いきなりこの様な大きな仕事を任されたギャップでプレッシャーを感じましたが、私が誰よりもその地味な仕事を大切にして、努力していたからこそ大原さんは、

「小さな仕事を大切に出来る気持があれば、大きな仕事も大切にして、小手先だけの仕事ではなく、心をこめた仕事をするだろう。」

と思われたそうです。

まとめ

K会長や奥様のお気持ちにどれだけ応えられたのかはわかりません。
ですが、間違いなく私のサービスマンとしての土台の一部となり、高く積み上げるための根底の面積が大きくなって、その後のお客様へのサービスに反映されていたと思っています。

まさに高野氏が言う

人は誰でも、新しいことに挑戦しながら成長していくものです。一人ひとりの独創性や、自由闊達な議論から生まれてくる発想が生かされる職場。そこからさらに新しい感性が芽生え、育っていく。
社員の「パーソナル・グロース(個人としての人間的成長)」これが会社にとっての喜びである。その事が社員に実感として伝わるためにも、深い信頼関係に裏打ちされた職場という舞台づくりを心がけなくてはならない。

この言葉を実感する体験となりました。

・・・

とは言え、当時のリッツ・カールトン、大原マネージャー、思い出す度に感謝の気持ちがこみ上げてきますが、器が大きすぎだと18年のサービス経験を持った今でも胸がいっぱいになるんですけどね(笑)

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