著者:清水健一郎
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今回は、前回に引き続き、様々な信頼を生み出す物語が書かれている書籍、

「リッツ・カールトン たった一言からはじまる「信頼」の物語」
高野 登(著)

の中から、清水目線でピックアップし、あなたにエッセンスをお伝えします。

この高野氏の著書は、どの物語も心に響き、刺激を与えてくれる物語なのですが、その中でも今回は第五章、

「リーダーとして「信頼」得る。

をご紹介させていただきたいと思います。

リーダーとして「信頼」を得ること

なぜ、今回、この物語を紹介させていただきたいと思ったか。

私は登場人物のフェアモントホテルのスウィッグ社長の行動に感激し、他人事のように思えない想いがこみ上げてきたからです。

では、スウィッグ社長と恐縮ですが私清水のエピソードをご紹介させていただきます。

スウィッグ社長の1通の手紙

著者の高野氏が、フェアモントホテルから新たなチャレンジを望み、新天地リッツ・カールトンに移る際のエピソードを紹介されています。

フェアモントホテルのスウィッグ社長から「どうだ、雇用契約を更新してくれないか?」と声をかけられた際、その場で「イエス」と言えなかった高野氏の迷いが伝わり、フェアモントホテルから見える建設中のリッツ・カールトンを指さしながら「あのホテルがきになるのか?リッツ・カールトンに願書を送ってみたらどうだ」と、無理に引き留めようとはせず、新たなチャレンジを後押ししてくれたそうです。

その後、リッツに採用された高野氏に当時の社長シュルツ氏が一通の手紙を見せました。
「俺の日本人の息子がそちらにいくかもしれないから、そのときはよろしく頼む」

この手紙は、フェアモントホテルのスウィッグ社長からシュルツ社長に送られたものだったそうです。

高野氏はフェアモルトホテルを離れることになりましたが、社長のスウィッグ氏との信頼関係は、むしろ深まったそうです。

心が震えるエピソードですね。

私と大橋君と東間君の秘話

実は、私も経営者になってからそんな経験をしました。
過去、バスティアンを支えてくれた二人の料理人大橋君と東間君のエピソードをご紹介します。

店が開業してから2年ほどして、開業準備からバスティアンの料理人であった大橋君に1つの焦りが生まれました。

それは、
「料理の修行がしたい。修業のできる職場に移りたい。」という焦りでした。

一緒に仕事を始めた当初、大橋君は、

「将来、独立した際、自分の店で提供する料理は軽食で、本格的な料理じゃなくていい。修業に出なくても・・・」

と思っていたそうですが、周囲の経験を積んだ料理人達に刺激され、次第にフランス料理に興味を持ち、修行に出たいと考えるようになったそうです。

その焦りは日に日に大きくなり、
「料理の修行に出たいです。バスティアンを退店させてください。」
と私に話しました。

当時の私は、店の死活問題だと思いましので、大橋君だけでなく私も焦りだしました。

私は、「次の料理人を探す。」
大橋君は、「早く料理の修行に出る。」

2人の目的が違う方向を向いてしまったので、それから彼と揉めた事は一度や二度ではありませんでした。
その為、大橋君を社会人として育てる事にも限界を感じはじめました。

それまでバスティアンの為に人生の一部を貸してくれた彼とは、一生、良き仲間として付き合っていきたいと思っていましたが、そんな彼がバスティアン以外の職場に移った時、もし料理だけでなく社会人としても通用しないとなると、それは私の責任です。

そこで、2008年7月末に大橋君を退店させる。
私は彼と約束しました。

そして、2008年1月、バスティアンオープンから顧客としてカウンターに夫婦で来店してくれていた料理人、後のバスティアンのシェフである東間君に声をかけました。

バスティアンが好きな彼は、将来オーナーシェフになったら、バスティアンの様な店を持ちたいと言ってくれておりました。

そんな東間君に私は、次のシェフになってくれないかと相談しました。

彼はチョット嬉しそうに、

「そう思っていただけて嬉しいです。やりたいです。
しかし、僕は副料理長に昇格したばかりで、副料理長に昇格させてもらった料理長への義理、そして今の料理長に付いて料理をもっと勉強したいです。
そうでなければ、義理も料理の技術、知識も悔いを残したままになってしまいます。
バスティアンに働きに行くには時間がかかります。
それでもよかったら、やりたいです。」

当時、彼は、京都ハイアットリージェンシーのフレンチレストランの副料理長に昇格したばかりでした。
ですから、すんなり退社してバスティアン入店と言うわけにはいかなかったのです。

私が「大橋君の退店まで時間がないし、すぐにバスティアンに来てくれ。」と言って、すぐ来るようでは、ハイアットのシェフを裏切る事になります。
また、そんな人財を私も求めているわけではなかったので、こう伝えました。

「わかった僕は君を待つ。
君の今の上司と僕が、笑顔でお喋りできるような円満退社をしてバスティアンに来てくれ。
君ハイアットでの人との繋がりは、決して傷をつけたくないから。」

この時、躊躇なくこんな約束が出来たのは、私自身とバスティアンのミッション「バスティアンで働いてくれている従業員の将来の夢の手助けをする。」を明確にしていたからだと思います。

そして、また、私が大橋君に、
「次のシェフが、バスティアンに来るのが遅れそうなので、退店するのを遅らせて欲しい。」
と言ったことも一度もありませんでした。
「約束どおり卒業させる。オレが料理を引き継ぐ。」と彼に言って覚悟を決めました。

私が大橋君最後の日に彼に送った言葉は、

「お前なんかボコボコにされて、ボロボロになったらええ。
だって、これから修業に行くんだろ、試練を求めて乗り越えて、もっと大きくなる為に出ていくんだろ、だったら、当然ボロボロになると覚悟を決めて行け、でっかくなったお前をみたい。」

実は、大橋君に言ったこの言葉、私が私自身に言っていたんです。

結果、大橋君の退店後、2年間、私が料理を引き継いで店を切り盛りしました。

私は大橋君との約束を守った時点で、東間君にオーナーとして信用してもらえ、そして、東間君との約束を守って信頼してもらったと思っています。

今、東間君はバスティアンを卒業してオーナーシェフとして独立しました。

大橋君は東京の二つ星レストランに飛び込み、副料理長に昇格して忙しい毎日を過ごしています。
2人とも一生の付き合いのできる男達です。

まとめ

著者の高野氏は、「信頼されるリーダーは、常に相手の成長を第一に考えています。」と書いています。

私も手前味噌ではありますが、そんな経験をこの二人からいただきました。
二人の料理人と試練に感謝しています。

相手の成長を願うことが、引いては自分の成長にもつながる。

人脈、というような点でも同じでしょうし、あらゆるビジネス・繋がりにおいても同じでしょう。

ぜひ一度、立ち止まって考えてみたいものですね。

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