著者:清水健一郎
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あたりまえすぎるリッツ・カールトンの業務マニュアルとクレド

業務マニュアルとクレド

 

1997年に日本第一号としてオープンしたリッツ・カールトン大阪の成功がきっかけで、クレドが世に知られるようになりました。

その時、「『クレドは最強のマニュアル』リッツのクレドを手に入れクレドに沿って経営すれば、リッツの様に成功する。」と、思われた時もありました。

 

ところが、リッツ大阪に行ってみて、恐る恐るリッツのスタッフに「クレドを見せていただけませんでしょうか?」と声をかけてみると、笑顔で新品のクレドカードをプレゼントされます。

 

いただけるどころか、企業秘密の様に見せて頂ける事もできないのでは? と、思っていた特に同業者の管理者たちは驚かれました。

もちろん、私も新品のクレドカードを何枚か携帯して、クレドの事を質問された方には進んでお渡ししていました。

 

では、何回かに分けて、「業務マニュアルとクレド」の違いを説明させていただきます。

 

クレドカードには、当たり前の事しか書いていません。

 

おそらく同業者の皆さんが、クレドカードをご覧になって一番に驚かれた事は、まずホテル業に従事する者にとって、当たり前の事しか書かれていないと言う事です。

私が在籍当時のクレドカードの中身です。

クレド(信条)

 

リッツ・カールトン・ホテルは

お客様への心のこもったおもてなしと

快適さを提供することを

もっとも大切な使命とこころえています。

 

私たちは、お客様に心あたたまる、くつろいだ

そして洗練された雰囲気を

常にお楽しみいただくために

最高のパーソナルサービスと施設を提供することをお約束します。

 

リッツ・カールトンでお客さまが経験されるもの、

それは、感覚を満たす心地よさ、

満ち足りた幸福感

そしてお客様が言葉にされない

願望やニーズをも先読みしておこたえする

サービスの心です。

 

 

 

モットー

 

We are Ladies and Gentlemen Serving Ladies and Gentlemen

 

 

サービスの3ステップ

 

あたたかい、心からのごあいさつを。

お客様をお名前でお呼びするよう心がけます。

 

お客様のニーズを先読みしお答えします。

 

感じのよいお見送りを。

さようならのごあいさつは心をこめて。

できるだけお客様のお名前をそえるよう心がけます。

 

 

 

従業員への約束

リッツ・カールトンでは

お客様へお約束したサービスを

提供する上で、紳士・淑女こそが

もっとも大切な資源です。

 

信頼、誠実、尊敬、高潔、決意を

原則とし、私たちは、個人と会社の

ためになるよう、持てる才能を育成し、

最大限に伸ばします。

 

多様性を尊重し、充実した生活を深め、

個人のこころざしを実現し、リッツ・カールトン・ミスティーク

(神秘性)を高める・・・

リッツ・カールトンは、このような

職場環境をはぐくみます。

 

 

ザ・リッツ・カールトン・ベーシック

 

1.クレドは、リッツ・カールトンの基本的な信念です。全員がこれを理解し、自分のものとして受けとめ、常に活力を与えます。

 

2.私たちのモットーは、「We are Ladies and Gentlemen Serving Ladies and Gentlemen」です。私たちはサービスのプロフェッショナルとして、お客様や従業員を尊敬し、品位を持って接します。

 

3.サービスの3ステップは、リッツ・カールトンのおもてなしの基本です。お客様と接するたびに、必ず3ステップを実践し、お客様に満足していただき、常にご利用いただき、ロイヤリティを高めましょう。

 

4.「従業員への約束」は、リッツ・カールトンの職場環境の基盤です。すべての従業員がコレを尊重します。

 

5.すべての従業員は、自分のポジションに対するトレーニング修了認定を受け、毎年、再認定を受けます。

 

6.カンパニーの目標は、すべての従業員に伝えられます。これをサポートするのは、従業員一人一人の役目です。

 

7.誇りと喜びに満ちた職場を作るために、すべての従業員は、自分が関係する仕事のプランニングに関わる権利があります。

 

8.ホテル内に問題点(MR BIV)がないか、従業員一人一人が、いつもすみずみまで注意を払いましょう。M(mistake)ミス R(rework)やり直し B(broken-down)破損 I(inefficiently)非効率 V(variety)ばらつき

 

9.お客様や従業員同士のニーズを満たすよう、従業員一人一人には、チームワークとラテラルサービスを実践する職場環境を築く役目があります。

 

10.従業員一人一人には、自分で判断し行動する力が与えられています。(エンパワーメント)。お客様の特別な問題やニーズへの対応に自分の通常業務を離れなければならない場合には、必ずそれを受けとめ、解決します。

 

11.妥協のない清潔さを保つのは、従業員一人一人の役目です。

 

12.最高のパーソナルサービスを提供するため、従業員には、お客様それぞれのお好みを見つけ、それを記録する役目があります。

 

13.お客様を一人として失ってはいけません。すぐにその場でお客様の気持ちを解きほぐすのは、従業員一人一人の役目です。苦情を受けた人は、それを自分のものとして受けとめ、お客様が満足されるよう解決し、そして記録します。

 

14.いつも笑顔で。私たちはステージの上にいるのですから。」いつも積極的にお客様の目を見て応対しましょう。お客様の目をみて応対しましょう。お客様にも、従業員同士でも、必ずきちんとした言葉づかいを守ります。(「おはようございます。」「かしこまりました。」「ありがとうございます。」など)

 

15.職場にいる時も出た時も、ホテルの大使であるという意識を持ちましょう。いつも肯定的な話し方をするよう、心がけます。何か気になることがあれば、それを解決できる人に伝えましょう。

 

16.お客様にホテル内の場所をご案内する時には、ただ指さすのではなく、その場所までお客様をエスコートします。

 

17.リッツ・カールトンの電話対応エチケットを守りましょう。呼び出し音3回以内に、「笑顔で」電話を取ります。お客様のお名前を出来るだけお呼びしましょう。保留にする場合は、「少しお待ちいただいてよろしいでしょうか?」とおたずねしてからにします。電話の相手の名前をたずねて、接し方を変えてはいけません。電話の転送はなるべく避けましょう。

 

18.自分の身だしなみには誇りを持ち、細心の注意を払います。従業員一人一人には、リッツ・カールトンの身だしなみ基準に従い、プロフェッショナルなイメージを表す役目があります。

 

19.安全を第一に考えます。従業員一人一人には、すべてのお客様と従業員に対し、安全で、事故のない職場を作る役目があります。避難、救助方法や非常時の対応すべてを認識します。セキュリティに関するあらゆる危険な状況は、ただちに連絡します。

 

20.リッツ・カールトン・ホテルの資産を守るのは、従業員一人一人の役目です。エネルギーを節約し、ホテルを良い状態に維持し、環境安全につとめます。

 

 

ホテル業に従事されている方だけでなく、サービス業の方、社会人の方がクレドに目を通せば、やはり「当たり前」の事しか書かれていません。

 

ここで、質問です。

 

この当たり前の事、皆さんは実践できていますか?

理解していますか?例えば「お客様への心のこもったおもてなし」とは、いったいどんな「おもてなし」ですか?説明できますか?後輩、部下に教育していますか?では、どのように教えていますか?どのように後輩、部下に実践してもらっていますか?後輩や部下に実践してもらって、お客様に喜んでいただいていますか?お客様に喜んでいただける事で、後輩、部下のモチベーションはどうなりましたか?彼らのスキルに繋がっていましたか?

 

こういった質問こそが、リッツ成功のカギなのです。

 

クレドカードを読んで終わり。成功しません。

クレドカードを読んで、質問、議論、さまざまな答えや、スタッフの経験からの情報の共有。

そして、何よりも考える癖が付きます。

質問される前に質問を予測。予測した質問の答え。

 

クレドは、考える癖をつけさせる事ができますが、業務マニュアルは、考える事を麻痺させる事も時にしてあるのではないでしょうか?

 

【編集後記】

クレドを研究している友松です。

本日の清水先生のコラムはいかがでしたか?

あたりまえだから、リッツ・カールトンのクレドを真似てクレドを作ってもうまくいかないのではないでしょうか。

 

私の個人的な考えですが、あたりまえすぎる例として、エンパワーメントはその代表だと感じます。

エンパワーメントはベーシックの10番です。

リッツ・カールトンの従業員は問題解決のために自分の判断で20万円までは稟議書の提出なく使っていいことになっているのは有名な話です。

 

ベーシックの10番は、そんな大事なことをカンタンに書いてますよね。

ここで、清水先生の今回のコラムからの引用ですが、

クレドは、考える癖をつけさせる事ができますが、業務マニュアルは、考える事を麻痺させる事も時にしてあるのではないでしょうか?

考える癖をつける場がラインナップです。

ここで、いろんなケーススタディをディスカッションで学びます。

ここで、エンパワーメントを学ぶから、レストランで泣き止まない子どもにホテルの商品のぬいぐるみをプレゼントできたり、お客様が忘れた大事な書類を届けるために新幹線に飛び乗ってしまうことができるのです。

 

もし、考える癖をつける場がなければ、友だちがホテルにきたから、経費でなにかサービスしてやろう。なんてことになります。

それがリッツ・カールトンではなかったと清水先生から聞いています。

 

リッツ・カールトンのクレドカードにはあたりまえのことしか書かれていないけれど、あたりまえのことだけ書いて細かくいろいろ書く必要がないんですね。

 

 

 

著者/清水健一郎

清水健一郎 ザ・リッツ・カールトン日本進出第一号ホテル、
ザ・リッツ・カールトン大阪のオープニングスタッフとして入社。身をもってクレドを実践する。
リッツ卒業後、数社のホテル、小規模飲食店をクレドによって立て直し、クレドがリッツ以外で経営に役立つことを証明する。
その後、オーナーサービスマンとして飲食店を開業。自ら経営者となる。

2013年に、これまでの経験を活かし出版した書籍が、ビジネス書では異例の2万5千部の販売を記録するヒットに。
失敗しない、小予算でできるクレド導入法を開発し、クレド導入を考える経営者や管理職の方へ無料レポートやクレド導入マニュアルを提供している。

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