クレド導入の例 ― 従業員個人個人に起こる4つの変化
クレドをつくり導入したいと考えている経営者の方は多いと思います。
大企業だけでなく中小企業から介護施設や歯科医などの開業医、そして居酒屋、カフェの個人店の経営者にいたるまでクレドを導入してホームページに公開をしているのをみかけます。
クレドはラテン語で「信条」「約束」「志」を意味する言葉なのですが、ビジネスでは企業理念や行動指針のことを表すものとして使われています。
ビジネスでクレドを使用している有名な企業は、ザ・リッツ・カールトンとジョンソン・エンド・ジョンソンの2社です。
両社ともクレドを中心においた経営をして世界的な成功を収めていて今も成長中の素晴らしい企業です。
ここで、会社として組織として企業理念や行動指針がなぜ必要なのかを考えてみたいのですが、「クレド」という言い方はしていませんが、たとえば楽天市場の「成功のコンセプト」は楽天市場に出店している企業の方たちも理解しているくらいに有名です。
私は楽天市場に出店したお店を立ち上げから担当したことがあり、そのとき楽天の担当者から「成功のコンセプト」をはじめて教えてもらい、まさに当時急成長中だった楽天市場を表したものだったことを身を以て感じました。
「成功のコンセプト」は今でも楽天の行動指針である「楽天主義」の1つとして私たちも読むことができます。
成功のコンセプト
「ブランドコンセプトを実現する」という楽天の掲げる目標に揺るぎはありません。「楽天の目標」への共感度を強め、実現度を高めるために「成功のコンセプト」があります。常に改善、常に前進
人間には2つのタイプしかいない。
【GET THINGS DONE】様々な手段をこらして何が何でも物事を達成する人間。
【BEST EFFORT BASIS】現状に満足し、ここまでやったからと自分自身に言い訳する人間。
一人一人が物事を達成する強い意思をもつことが重要。Professionalismの徹底
楽天はプロ意識を持ったビジネス集団である。
勝つために人の100倍考え、自己管理の下に成長していこうとする姿勢が必要。仮説→実行→検証→仕組化
仕事を進める上では具体的なアクション・プランを立てることが大切。顧客満足の最大化
楽天はあくまでも「サービス会社」である。
傲慢にならず、常に誇りを持って「顧客満足を高める」ことを念頭に置く。スピード!!スピード!!スピード!!
重要なのは他社が1年かかることを1ヶ月でやり遂げるスピード。
勝負はこの2~3年で分かれる。(楽天グループ公式サイトより引用)
私が楽天に出店したお店の担当をしていたときは、日々改善が繰り返されたり、私たちの意見をよく聞いてできる限りのアドバイスや情報をもらえたり、とくに印象にあったのは最後の「スピード!!スピード!!スピード!!」でした。
スピード感をもっていろんなものが実現していく楽天に出店者としてついていくのがやっとでしたが、ECサイト担当者としての情報もスキルも楽天と関わることでアップしていったことは間違いありません。
書いてあることがそのまま企業や従業員をとおしてイメージできる「成功のコンセプト」は今からクレドを作ろうとしている経営者の方たちにとって大変勉強になるものです。
クレドを導入する狙い、個人の成長例
これからクレドを作ろうとしていつ経営者の方に、クレドを導入する狙いについてお話したいと思います。
クレドを導入することでこのような効果が期待できます。
従業員個人個人が自分で判断できるようになりスペシャリスト集団が育成される
クレドの導入にほとんど費用はかかりません。
クレドを作った後は従業員全員がクレドを印刷したクレドカードを持ち歩くようにするだけですから印刷代程度で済んでしまいます。
クレドは企業理念や経営理念が従業員にもわかりやすい行動指針になったものですから、クレドカードを携帯して毎日クレドを上手に活用するということは、従業員として仕事をするときの思考や行動を明文化して行動基準を持つことになります。
これによって、末端の従業員さえも仕事の本質をとらえて自分で判断して行動できるようになります。
その結果、正しい決断ができる従業員が育ち、目の前に現れるチャンスを逃すことなく、お客様を感動させることができるサービスを実行することができるようになります。
個人が成長し、連帯の強い組織が育成される
クレドとはカンタンに説明すると「信条」という意味があるラテン語です。
いつでもクレドを持ち歩けるように4つ折りにすると名刺サイズになる紙にまとめたモノがクレドカードです。
クレドコンサルタントの清水健一郎氏が在籍していた頃のリッツ・カールトンのクレドカードは、クレド、モットー、従業員への約束、サービスの3ステップ、ザ・リッツ・カールトン・ベーシックの5つが掲載されていました。
クレドカードはリッツ・カールトンの経営理念やサービスへの考え方をしめしたカードです。
清水氏が在籍していた頃は、クレドといえばクレドカードに書かれていた内容すべてをクレドと言っていたそうです。
このクレドカードに書かれている内容を従業員に浸透させるために、クレドカードを携帯させて、最低でも1日1回はクレドカードの内容に目を通して考える時間があたえられました。
それがラインナップ(リッツ式の朝礼)です。
ラインナップでは、クレドが従業員の普通になるまでクレドを題材にしてラインナップでディスカッションされます。
なぜ従業員の普通になるまでクレドをディスカッションするのでしょうか。
それは、クレドコンサルタントの清水氏がリッツ・カールトン大阪の開業時に受けた、世界各国のリッツ・カールトンから集まったサービスのスペシャリストたちからのトレーニングが参考になるでしょう。
従業員の仕事への向き合い方が変わる事例
「自分のキャラクターを活かして個性的なサービスで対応する者がサービスのスペシャリストである」
「そのサービスのスペシャリストを支えているのがクレドだ」
とトレーナーは言ったそうです。
リッツ・カールトン大阪の開業時に、清水氏をトレーニングしたサービスのスペシャリストを紹介します。
メキシコから来日したトレーナーは、お客様に出身の国を聞かれると「サルサの国、メキシコからです」と言ってお客様の前でサルサを踊って見せていたそうです。
またアメリカから来日したトレーナーは、ウインク1つで女性のお客様の心を掴みます。
シンガポールから来日したトレーナーは、落ち着いたサービスでお客様に安心感をあたえていました。
そして、フランス人トレーナーは、初めてリッツ・カールトンを利用する女性のお客様の緊張を解きほぐすために、お客様と初対面にもかかわらず満面の笑みを浮かべながら片言の日本語で言います。
「どうもはじめまして。昔からあなたのことを愛していました」
そして、さらに女性の手を握り
「今日は、あたなのために最高の料理をご用意します」
この姿を見た清水氏は、とても日本人には真似のできないサービスだと思ったそうです。
しかし当時、清水氏を担当していたシンガポールのトレーナーは教えてくれました。
「ぼくたちがなぜ、クレド、クレドと言うか。クレドにそって社会人のルール、次にホテルマンとしてのルールを身につけなければ、個人のキャラクターを活かしたサービスをするのはとても危険だよ」
「知らず知らずのうちにお客様に不快な気持ちをあたえているかもしれないからね。ルールをおぼえて守らなければサッカーでも野球でもチームメイトや相手チームにも迷惑がかかり、観客も不快な気持ちになる」
「ぼくたちは社会人、ホテルマンとしてのルールの教育、個人のキャラクターを活かしたサービスの育成をクレドを土台にやっているんだ」
「クレドを心でおぼえれば無意識にクレドにそったサービス、言動ができる。クレドが君たちを普通になるまでクレドをくりかえすよ」
クレドの役割のひとつを説明した言葉として教えてくれました。
リッツ・カールトンの初代社長、ホルスト・シュルツ氏は、リッツ・カールトン大阪の開業時にオープニングスタッフだった清水氏たちに、クレドカードを手に持って
「このクレドこそ、リッツのすべてであり、クレドがあるからリッツだ」
と言っていたそうです。
つまりクレドがリッツ・カールトンのスタッフを育てているのです。
経営者のメッセージが従業員個人に伝わる
リッツ・カールトンのスタッフを育てる場所は毎日始業前の20分を使っておこなわれる「ラインナップ」でした。
実際のラインナップでは、クレドカードに書かれている内容から毎日1つ選んで読み上げます。
そこから質問をもらいディスカッションをします。
クレドは企業理念や経営理念が従業員に理解しやすくわかりやすい行動指針になったものであることはお話しました。
このラインナップでクレドをつかってディスカッションするこというこは、つまり経営者のメッセージを毎日従業員に伝えているということなのです。
ラインナップでかわされるディスカッションの例を紹介します。
- 「今日は、ジェントルマンについてディスカッションします」
- 「ジェントルマンとはどんな男性ですか?」
- 「日頃、ジェントルマンになるために、どんなことを実践していますか?」
ラインナップリーダーが若い従業員に質問をして、ディスカッションをしながら答えを探します。
もちろん、答えは従業員によって無数にあります。
答えはひとつではありません。
クレドカードに書かれていることを題材にして質問することで日頃取るべき行動が明確になり習慣化します。
習慣化することで、無意識にクレドを実践できるようになります。
クレドで従業員個人が本質をとらえて判断・行動できる理由と事例
ラインナップを例にあげたようにクレドを導入することでなぜ末端の従業員でさえも本質をとらえて判断や行動ができるのでしょうか?
その理由をご説明したいと思います。
不変的な経営理念や仕事の考え方をわかりやすくしたものがクレド
社是、社訓、企業理念、経営理念。
毎日の朝礼で全従業員が唱和をしている会社では、創業者の想いは末端の従業員までいきわたっているでしょうか。
もしいきわたっていないと感じていたとしても、それは会社の社是、社訓、企業理念、経営理念の内容が悪いわけでも、実現してくれない従業員が悪いわけでもはありません。
原因は単純に、社是、社訓、企業理念、経営理念が従業員が実践するにはわかりにくいからです。
クレドは行動指針と言い換えることができます。
クレドにすることで、社是、社訓、企業理念、経営理念がわかりやすくなり、仕事で迷ったときの従業員の行動指針になるのです。
クレドの内容が理解しやすく覚えやすい
リッツ・カールトンのクレドもクレドカードに書かれたすべての内容も、驚くほどあたりまえすぎてガッカリするかもしれません。
実際にリッツ・カールトンのクレドが注目されるようになったとき、多くの経営者がリッツ・カールトンに行き、クレドカードをもらって帰っていたそうです。
クレドコンサルタントの清水氏も当時リッツ・カールトン大阪に勤務していたときはお客様に差し上げるため、クレドカードを多めに携帯していたといいます。
しかし期待して手に入れたリッツ・カールトンのクレドカードに書かれていた内容を読んだ多くの経営者たちは、クレドカードの内容にがっかりしたといいます。
それはだれでも知っているあたりまえのことしか書かれていなかったからです。
つまり今から作る自分たちのクレドもそれくらいあたりまえで理解しやすい覚えやすいものでなければならないということです。
もし従業員が現場で悩んでもクレドに立ち返れば答えが見つかる
自分は所属している会社の社員としてどうするべきか?
このようなときもクレドが役に立ちます。
クレドが行動指針ですから、クレドをもとにして自分ならどうするべきか、答えはおのずと見つかります。
ただしこれはクレドを導入することでできるようになると言われていますが、クレドを作って導入しただけではそうカンタンにリッツ・カールトンの従業員のようにはならないと思います。
現場で悩んでもクレドを読んで答えを見つけることができる従業員を育てるには、クレドを導入することはもちろんです。
そして、リッツ・カールトンのようにラインナップを導入してクレドをもとにしたディスカッションを習慣にしていくことで従業員が育っていきます。
やはり経験値、場数、ケーススタディは大切です。
リッツ・カールトンの成功を知ってクレドを導入したけれど、リッツ・カールトンのような変化が無いという会社はここが足りないのではないでしょうか。
現場で個人としてどう行動すればよいかクレドに書いてある
会社の一員として従業員としてどう行動すべきか?
これはクレドが無い会社でも日々考えることですよね。
判断に迷った若い従業員は先輩や上司に、どう行動すべきかアドバイスを求めます。
しかし帰ってくるアドバイスは、上司と先輩でそれぞれ違う。
そんなシーンはよくあると思いますし、経験したことがある人もいるのではないでしょうか?
もちろんアドバイスを上司や先輩に求めるのは悪いことではありませんし、後輩や部下のために真摯にアドバイスをする上司や先輩も悪くありません。
そしてアドバイスもそれぞれが的を得たものであるはずです。
しかしクレドがあれば、クレドが会社に浸透していれば、若い従業員は上司や先輩にアドバイスを求めなくても自分で判断して行動することができるようになります。
そしてその行動は、クレドを元にして考え出された行動なので、従業員それぞれが違う行動をしても求められる結果は共通したものになるはずです。
また「どうしてこのような行動になったか?」
という質問をしたとしても、行動の理由は納得できるものであるはずです。
なぜならクレドを元にして考えた行動だからです。
もちろん失敗することもありますが、それは毎日の「ラインナップ」でディスカッションして修正すればいいだけです。
そしてディスカッションと修正した内容は、そのディスカッションを聞いているまわりの従業員たちにもケーススタディとなって全員の経験値を上げていく効果が期待できます。
従業員個人に本質をとらえようとするクセがつく
リッツ・カールトンのクレドカードには、ガッカリするくらい誰でも知っているあたりまえのことしか書かれていないとお話しました。
これはつまり、普遍的な内容がクレドになっているということです。
普遍的というのは「多くのことにあてはまる」「全てに共通することがら」という意味があります。
普遍的な内容が反映されているクレドなら、そのクレドを元にして自ら考えて行動する従業員が増えてくれば、本質をとらえようとするクセが自然に育っていくはずです。
もちろん、何度もいいますがラインナップはクレドとセットです。
まとめ
クレドを導入したあと、従業員が個人としてどんな成長を遂げるのか?
例をあげながらお話しました。
今回のクレドで個人がどのように成長していくのか、例もまじえてお話できたのは、リッツ・カールトン大阪の元オープニングスタッフで現在はクレドコンサルタントの清水健一郎氏の経験があったからです。
清水氏はホテルの専門学校を卒業後、新卒でリッツ・カールトン大阪に入社します。
ご存知の方も多いと思いますが、リッツ・カールトン大阪はザ・リッツ・カールトングループが日本にはじめて進出した第一号ホテルです。
日本では無名に近かった外資系ホテルのリッツ・カールトンは1994年にオープンしてわずか5年で全国のホテルランキングで1位を獲得します。
その時のリッツ・カールトンの成功からクレドが注目されるようになりました。
このときリッツ・カールトンに在籍していた従業員は伝説のスタッフと呼ばれているそうです。
クレド、そしてラインナップがあったからこそ成長できたと清水氏はいいます。
クレドは今回お話ししてきたように従業員個人個人を成長させてくれる効果があります。
クレドを導入することまでは考えていなくてもクレドに興味のある方はぜひ、クレドやリッツ・カールトンを取り上げているビジネス書等を読んで知識を深めてみることをオススメします。
きっと新しい発見があるはずです。
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記事/友松はじめ
クレド勉強会 友松はじめ
勤務していた食品通信販売会社の業務に関連するセールスマーケティング書籍の他、心理学、自己啓発、加速学習等、あらゆるジャンルの本を1 日1~2 冊のペースで読むようになり、3,000 冊以上を読破。
本から得た情報を担当していたインターネット通販に活かし、売上げを月商数万円のレベルから月商1,000 万以上、年商1億のサイトに育てる
現在は、自身の経験を基にしたビジネス読書法講師、読書法を使った読書会ファシリテーターとして、活動中