ホスピタリティの原則と「個性」はどこまで出していいのか?クレドやリッツ・カールトンから考える
リッツ・カールトンの究極のホスピタリティ
四方 啓暉(著)
出版元 河出書房新社
ホスピタリティと一言で言っても、様々な形があります。
例えば、リッツでは、高額をいただいて、それを超える感動のサービスを提供しますが、逆にコストパフォーマンスに優れる、廉価なホテルやお店では、さすがにリッツと同じサービスを提供することはできません。
それは当然ですよね。
そんな中で、一つ課題として出てくるのが、
「サービスマンの個性はどこまで許されるのか」ということ。
何の考えもなしに、スタッフがそれぞれ気ままにサービスを提供したのでは、それはそれは多くのトラブルが起こるでしょう。
それはリッツであろうと他のお店やホテルであろうと同じ事です。
しかし、逆に無個性であっても、質の高いサービスを提供することは難しいと考えています。
そこで今回は、ホスピタリティの原則と、この「個性」はどこまで出していいのか、を考えてみたいと思います。
ホスピタリティの原則と「個性」はどこまで出していいのか?
リッツを退社してからの大切な出会い。10代の少年サービスマンから学んだ事。
わかりやすいように、リッツ・カールトンの究極のホスピタリティ(四方 啓暉氏著)のP134の言葉を引用させてください。
四方氏曰く
同じ会社・組織内においては、「喜んでもらいたい」という心も、提供するサービスも、全員が一定以上のレベルでなければいけません。
しかし、その表現方法には人それぞれの違いがあっていい。むしろ、1人1人の個性やオリジナリティは、活かすべきものです。
お客様を心からおもてなしするための表現方法に、絶対的な正解はありません。
一人の人間として、自分の人生をもとに、「こうしよう」「こういうふうに言葉にだそう」と考えて自ら動くことが、「ホスピタリティ」の原則だからです。
こう書いています。
この部分。
私がリッツを退社し、始めて町場のレストラン勤務、しかも、バーでのカウンター接客をするうえで、今までのサービススタイルを大きく変化させる必要が出てきて、悩んでいた頃をすごく思い出す箇所なんです。
わかりやすいと思いますので、ちょっとその頃のエピソードをご紹介させていただきます。
お客様との距離感
具体的に私が何に悩んでいたのか?
それは、ホテルでの接客と町場の飲食店の接客について、お客さまとの距離感が明らかに違っていたからです。
あくまで私の主観も含まれていますが、町場の飲食店の方がお客様と近いのではないかと思います。
それは、お客様の態度というか、気構えの違いからしてもそうです。
お客様と友達になったり、食事、ゴルフに行ったりと、特にカウンター接客をしている飲食店は、よりお客様との距離が縮まりますよね。
私が町場の飲食店に勤務するようになって、自分のサービスのスタイル、お客様との距離の取り方について、変化させなければならない環境に飛び込んだと痛感し、少し悩んでいた頃、タイ料理のレストランで働く、10代のサービスマンの噂を耳にしたんです。
彼の事を話す人達の顔は、いつも笑顔で、彼を思い浮かべて話す際に幸せを感じているのでは?と思うほどでした。
その理由を聞くと、「とりあえず会いに行け」と言われ、私は、いてもたってもいられず当時の上司にそのタイ料理のレストラン「トゥクトゥク」に連れて行ってもらいました。
そこで、私は今までに感じた事のない様な衝撃を受けました。
本当に「衝撃」です。
私がトゥクトゥクで受けた衝撃とは
なにが衝撃だったか。
それは、トゥクトゥクに来店されたお客様は皆、彼の接客の虜になっていくのが手に取る様にわかったのです。
来店されたお客様は、必ず一度は彼を注目します。しないお客様は、店内に一人もいません。
丁寧さ、親切さ、愛情が伝わるだけでなく、プロフェッショナルとしての自覚があるようで、タイ語でメニューを厨房に伝え、メニュー説明も非の打ち所がありません。
そんな仕事を見ていると、同年代の人は尊敬気味に友達になりたいと思い。年上の大人からは、頑張っている姿が、とても応援してやりたいと思えるような。
そんな、愛される接客でした。
そして、何よりも彼は、モヒカンだったのです。
この時、私の中の何かが大きく音を立てて崩れ落ちた様に感じました。
彼の名は、林 毅浩。
その後、急速に仲良くなりました。
私と彼、同じサービスマン同士にも関わらず、お互いにないものを持っている二人です。
彼は春夏秋冬を考えモヒカンの色を春には桃色、秋には赤、夏にちょうどサッカーワールドカップが重なったので、夏色と侍ブルーを意識し青に変えてお客様を喜ばせていました。
休みが取れると本場タイに行き、お腹を壊しながらもタイ料理を食べ歩いて、がむしゃらに勉強していました。
当時の彼は若かったせいもあり、何も計算や理論に基づいたサービスをおこなっていたわけではなく、純粋に一生懸命サービスをおこなっていました。
四方氏の言う
自分の人生をもとに、「こうしよう」「こういうふうに言葉にだそう」と考えて自ら動くことが、「ホスピタリティ」の原則だからです。
その人生経験を一つでも多く持とう。と、している様に思いました。
それを傍で見ていると、彼は自分と言う人間を、サービスをおこなう事により磨こうとしていた様に思えます。
この姿勢、最高にプロじゃないかと思いませんか?
こんな彼だからこそ、お客様とサービスマンの彼との距離はすぐに縮まり、お客様とサービスマンとの関係を超えて、友達や時に兄弟の様な付き合いになるのは、必然だったと思います。
まとめ:ホスピタリティの原則とは。
私は、彼を観察する事で、サービスマンとお客様との距離のコントロールだけでなく、私自身のサービスの幅を広げる事が出来たと思っています。
何度もしつこいようですが、大切なのでもう一度。
自分の人生をもとに、「こうしよう」「こういうふうに言葉にだそう」と考えて自ら動くことが、「ホスピタリティ」の原則だからです。
結局は、サービスマンもお客様も人間であり、人と人とのやり取りだと思います。
おそらく、ホスピタリティ、サービス業に従事する人だけでなく、いかなる仕事もそれに従事されている方々は、人生を掛け、仕事で人生を表現しているところは、あるのではないのでしょうか?
著者/清水健一郎
清水健一郎 ザ・リッツ・カールトン日本進出第一号ホテル、
ザ・リッツ・カールトン大阪のオープニングスタッフとして入社。身をもってクレドを実践する。
リッツ卒業後、数社のホテル、小規模飲食店をクレドによって立て直し、クレドがリッツ以外で経営に役立つことを証明する。
その後、オーナーサービスマンとして飲食店を開業。自ら経営者となる。
2013年に、これまでの経験を活かし出版した書籍が、ビジネス書では異例の2万5千部の販売を記録するヒットに。
失敗しない、小予算でできるクレド導入法を開発し、クレド導入を考える経営者や管理職の方へ無料レポートやクレド導入マニュアルを提供している。