著者:清水健一郎
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リッツ・カールトンの理想とするホスピタリティとは、どういったものかご存知でしょうか?

感動を提供するサービス、というのもそうですし、快適なサービスを提供するというのももちろんそうです。

しかし、それだけでは曖昧。
もう少し踏み込んで、具体的な例をお伝えしたいと思います。

まず、前回も取り上げた、「リッツ・カールトン20の秘密 一枚のカード(クレド)にこめられた成功法則」の中に、「クレド」の解説部分があります。

その中に、あるエピソードが書かれています。
エジプトの右端にある紅海ぞいのザ・リッツ・カールトン・シャルム・エル・シェイクでであったスタッフMrホッシンのエピソードです。

井上氏がMrホッシンに出迎えられた際の印象は、とてもフレンドリーだが、マナーは十分心得ていて、とてもすがすがしく感じたそうです。
そして、井上氏を滞在中、心から楽しませるために、エアロビやミニゴルフ、スノーケリングなどなど、様々なアクティビティを紹介し、ホッシン自身がスタッフとして持てなします。

さらに、Mrホッシン一番のおすすめのスノーケリングを存分に楽しみ、Mrホッシンみずから摘んだ花束をプレゼントされ「本に挟んでおくと、いつまでも良い香りがしますよ。」と言われたそうです。

井上氏がリッツ・カールトンで頂いた花束の中では一番小さな物だったそうですが、その花を見るたびにホッシンの最後の笑顔を思い出されるそうです。

このエピソードを、ザ・リッツ・カールトン東京の元総支配人であるリコ・ドゥブランク氏は「リッツ・カールトンの理想とするホスピタリティのすべてが凝縮されている」と言います。

どういうことか。

心から楽しんでいただくこと。
心に残るおもてなしを提供すること。
そして、それをお客様一人一人のために提供できること。

他にも様々なことがありますが、「クレドから発する心からのおもてなしと、それを可能にするサービスの技術」こそが、リッツのホスピタリティであるのだと思います。

実は私もリッツ・カールトン大阪で、リッツ・カールトンの理想とするホスピタリティのすべてが凝縮されていて、クレドを説明するにピッタリのエピソードをスタッフ側で経験しました。

これは、私の拙著をお読みくださった方や、マニュアルを手に取ってくださった方ならご存知かもしれませんが、私がロビーラウンジで働いていた時の話です。

クレドカードの内容を理解し、習慣化させた、あるサービスマンのエピソード。
このエピソードは、リッツではめずらしく、お客様にNOを使って、感激、感動、感謝されたエピソードです。

ロビーラウンジの営業が終了して、掃除のために照明を明るくし作業にかかろうとしたその時、海外からの旅行客が団体でロビーラウンジ前に来られました。

日本について真っ先にホテルに来られたそうです。
深夜とはいえ旅客機の中で睡眠を取っておられた様子で、
「一杯でもいいからアルコールを飲みたい。そうでないと眠れそうにない。だか、営業が終了してしまっている。どうしよう?」
と、いう感じでロビーラウンジを入り口から眺めておられました。

それを察したロビーラウンジの男性スタッフの若林さんは、躊躇することなくお客様をラウンジ内に案内し、お客様同士が会話しやすいようにテーブルとソファーを移動させ、女性スタッフは終電に間に合う様に帰らせ、照明を営業時に戻して、若林さんと私とバーテンダーの檀上さんの三人で対応しました。

完全に3人はサービス残業ですが、笑顔で接客し、スタッフの中心になっていた若林さんは、お客様にいつもよりドリンクのお代わりを伺いに行く回数を増やしました。

なぜなら、「一杯だけでいいから飲ませてくれないか?」と営業終了後のラウンジに来られたわけですから、私たちスタッフ側に気を使っておられ「営業終了後に来店して、お代わり頼んだら悪いな?」と思われている事を若林さんが察して、あえてドリンクのお代わりを伺いに行く回数を増やしました。

そうすると、お客様は「お代わり頼んでいいんだね。もっとラウンジでくつろいでいていいんだね。」と思われた様子でした。なかなか頼みにくい事を先読みしてフォローしてくれるスタッフに感激されていました。

そして、若林さんにチップを渡そうとされた時です。若林さんは少し慌てた感じでゲストに対して、NOを使いました。

「NO Thank you!It’s My Pleasure(結構ですよ。それは、私の喜びです。)」

お客様は驚かれ更に感激されました。

今回のおもてなしでチップを断るスタッフに対し、
「本気で私達(お客様)を大切に思って対応してくれた。」
お客様はそう思われたのでしょう。
若林さんに対して、気持ちが治まらなかったようで、料理のお皿の下にこっそり高額なチップを置いて宿泊されている部屋に戻られました

後始末をしている時、チップに気付き私達は驚きました。
ここまでされてチップを返すのは失礼です。
今後の勉強の為、ロビーラウンジの貯金箱に入れて、皆で使わせていただきました。


いかがでしょうか?
このエピソードをクレドに当てはめて見てください。

クレドリッツ・カールトン・ホテルは
お客様への心のこもったおもてなしと
快適さを提供することを
もっとも大切な使命とこころえています。私たちは、お客様に心あたたまる、くつろいだ
そして洗練された雰囲気を
常にお楽しみいただくために
最高のパーソナルサービスと施設を提供することをお約束します。

リッツ・カールトンでお客さまが経験されるもの、
それは、感覚を満たす心地よさ、
満ち足りた幸福感
そしてお客様が言葉にされない
願望やニーズをも先読みしておこたえする
サービスの心です。

どう思われますか?
加えて、女性スタッフを先に返して男性スタッフだけでサービス残業と、いただいたチップを自分だけのものにしない若林さんは、まさに
「We are Ladies and Gentlemen Serving Ladies and Gentlemen」
に則ったサービスマンです。

クレドは世界中のリッツ共通です。

国境を越え、言葉を越え、宗教を越え、リッツスタッフを育てます。
最高のサービスを生み出します。

それが、シンプルながら効果絶大なクレドの力なのです。

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