クレドーを導入後ずっと増収増益。ジョンソン・エンド・ジョンソンとクレドーの関係とは
クレドを語るうえで絶対に外せない企業があります。
それはジョンソン・エンド・ジョンソンです。
ジョンソン・エンド・ジョンソンは、製薬・医療機器・ヘルスケア商品を取り扱うアメリカが本社のグローバル企業です。
私たちがもっているジョンソン・エンド・ジョンソンのイメージは、ドラッグストアで販売している赤ちゃん用品の会社くらいしか思い浮かびません。
しかしジョンソン・エンド・ジョンソンは、赤ちゃん用品をはじめいろいろなヘルスケア商品を取り扱っている他に、実は製薬や医療機器も開発している世界最大級のトータルヘルスケアカンパニーなのです。
そしてジョンソン・エンド・ジョンソンは、世界最大級のトータルヘルスケアカンパニーでありながら、世界60カ国以上250以上のグループ企業と127,000人もの従業員が、たった1枚に書かれた『クレドー』を中心とした経営と業務を統一して行っているという事実。
これだけの規模の企業が、たった紙1枚に書かれたクレドーを中心に統一されているなんて、あらためて考えても到底信じられません。
しかしジョンソン・エンド・ジョンソンはクレドーを中心とした経営で毎年増収増益を達成していることを多くの方が知っています。
しかも1943年に3代目社長のロバート・ウッド・ジョンソンによってクレドーが起草されてから76年間一度も前年割れをしたことがありません。
コーポレート・ガバナンス、コンプライアンスの遵守、モラルハザード、バイトテロ…
今、中小企業はもちろん大企業でさえも会社と従業員のバリューの共有に苦労しています。
大企業だからクレドを導入しやすい、従業員数が多すぎると意思統一が難しくなる、小さい会社はクレドは運用できない、などクレドに関していろんな声があります。
しかし世界60カ国以上250以上のグループ企業と127,000人もの従業員がいる企業にできてその他の企業にクレドの導入はできないものでしょうか?
ジョンソン・エンド・ジョンソンがどのようにクレドーを導入してどのように活かしているかを見ていきながら、クレド導入のヒントを探っていきたいと思います。
※ジョンソン・エンド・ジョンソンではクレドのことを『クレドー』といいます。英語の表記は同じCredoです。
ジョンソン・エンド・ジョンソンのクレドー 《 我が信条(Our Credo) 》
ジョンソン・エンド・ジョンソンのクレド―『我が信条』を引用します。
我々の第一の責任は、我々の製品およびサービスを使用してくれる患者、
医師、看護師、そして母親、父親をはじめとする、すべての顧客に対するもの
であると確信する。顧客一人ひとりのニーズに応えるにあたり、我々の行なう
すべての活動は質的に高い水準のものでなければならない。
我々は価値を提供し、製品原価を引き下げ、適正な価格を維持するよう
常に努力をしなければならない。顧客からの注文には、迅速、かつ正確に
応えなければならない。我々のビジネスパートナーには、適正な利益をあげる
機会を提供しなければならない。我々の第二の責任は、世界中で共に働く全社員に対するものである。
社員一人ひとりが個人として尊重され、受け入れられる職場環境を提供
しなければならない。社員の多様性と尊厳が尊重され、その価値が
認められなければならない。社員は安心して仕事に従事できなければならず、
仕事を通して目的意識と達成感を得られなければならない。待遇は公正かつ
適切でなければならず、働く環境は清潔で、整理整頓され、かつ安全でなければ
ならない。社員の健康と幸福を支援し、社員が家族に対する責任および
個人としての責任を果たすことができるよう、配慮しなければならない。
社員の提案、苦情が自由にできる環境でなければならない。能力ある人々には、
雇用、能力開発および昇進の機会が平等に与えられなければならない。
我々は卓越した能力を持つリーダーを任命しなければならない。
そして、その行動は公正、かつ道義にかなったものでなければならない。我々の第三の責任は、我々が生活し、働いている地域社会、更には全世界の
共同社会に対するものである。世界中のより多くの場所で、ヘルスケアを身近で
充実したものにし、人々がより健康でいられるよう支援しなければならない。
我々は良き市民として、有益な社会事業および福祉に貢献し、健康の増進、
教育の改善に寄与し、適切な租税を負担しなければならない。我々が使用する
施設を常に良好な状態に保ち、環境と資源の保護に努めなければならない。我々の第四の、そして最後の責任は、会社の株主に対するものである。
事業は健全な利益を生まなければならない。我々は新しい考えを試みなければ
ならない。研究開発は継続され、革新的な企画は開発され、将来に向けた
投資がなされ、失敗は償わなければならない。新しい設備を購入し、新しい施設を
整備し、新しい製品を市場に導入しなければならない。逆境の時に備えて
蓄積を行なわなければならない。これらすべての原則が実行されてはじめて、
株主は正当な報酬を享受することができるものと確信する。
リッツ・カールトンのクレドとは、構成が違いますが、記載された内容には共通するところがとても多く感じます。
ジョンソン・エンド・ジョンソンのクレド―を読んで、従業員に対して、地域に対して、関わる全ての人の幸せとそれを実現するための企業の目指す姿をしめすことが、クレドのひとつの基本形だと感じます。
ジョンソン・エンド・ジョンソンの歴史
ジョンソン・エンド・ジョンソンは1886年にジョンソン3兄弟によって創業されました。
ロバート・ウッド・ジョンソン、ジェームス・ウッド・ジョンソン、エドワード・ミード・ジョンソンです。
創業当時のジョンソン・エンド・ジョンソンにクレドーはありませんでした。
1943年にクレドーは、3代目社長のロバート・ウッド・ジョンソンによって起草されたのが最初です。
1943年はジョンソン・エンド・ジョンソンがニューヨーク株式市場に上場した年で、家族企業から株式公開企業に変わったタイミングでもあります。
1943年にロバート・ウッド・ジョンソンが起草したクレドーには4つの責任が入っていました。
1.消費者に対する責任
2.一般従業員に対する責任
3.経営者に対する責任
4.株主に対する責任
この頃のアメリカの企業では、消費者よりも株主の利益が大切という考え方がほとんどだったそうで、株主を最後にもってくるこの考え方は大変新しかったようです。
この順番は普遍的な企業の考え方で、このような考えの企業が長く続く企業だとロバート・ウッド・ジョンソンは考えていたそうで「株主が1番じゃないとダメじゃないですか?」と意見する関係者には「私、大株主なんだけど、なにか?」と言ったかどうかはわかりませんが、そうやってていねいにクレドーの考え方を説明していったそうです。
このときのクレドーのもとになったのは、ロバート・ウッド・ジョンソンが1935年に取締役会で配ったTry Reality と題された小冊子だったそうです。
1932年に社長に就任し、3年後に自分の考えを小冊子で発表し、就任から10年たってクレドーを発表したことになります。
1948年に地域社会に対する責任が加えられて4番目に入ります。
1.消費者に対する責任
2.一般従業員に対する責任
3.経営者に対する責任
4.地域社会に対する責任
5.株主に対する責任
ロバート・ウッド・ジョンソンはクレドーを会社に浸透させるために、言った言葉があります。
「この内容に賛同できないなら他社で働き口を見つけてくれて構わない」
ロバート・ウッド・ジョンソンの熱意と覚悟が表れた言葉です。
※3代目社長のロバート・ウッド・ジョンソンと創業者のロバート・ウッド・ジョンソンは同姓同名の別人です。
そのため社内では2人を区別するために3代目社長のことを『ジェネラル・ジョンソン』と呼ぶそうです。
タイレノール事件 クレドーで成し遂げた危機管理対応
ジョンソン・エンド・ジョンソンのクレドーの凄さは、2回のタイレノール事件で説明ができます。
タイレノール事件は1982年と1986年にアメリカ全土を震撼させた毒物混入事件です。
タイレノールはアメリカの家庭で常備薬として普及している頭痛薬なのですが、1982年にこのタイレノールを飲んだ人たちが次々に死亡するという痛ましい事件がおきました。
このタイレノールを製造・販売していたのがジョンソン・エンド・ジョンソンでした。
この事件は悪意ある第三者がタイレノールに毒物を混入して起こしたものでした。
事件発覚からほどなくして犯人から100万ドルの要求が届きます。
そして対策会議の中で、今起きている事実をそのまま消費者に伝えることと全米の薬局や家庭にあるタイレノールをすべて回収することを決めました。
このような英断ができたのはクレドーがあったからでした。
記者会見ですべてを公表し、全てのタイレノールを回収することを決めたこと宣言して全社員、そしてOB、薬局の人たち、多くの人の協力をえて、ジョンソン・エンド・ジョンソンは実際にアメリカ全土にあるすべてのタイレノールを回収しました。
タイレノールを回収するだけではありません。
今後、同じような被害者を出さないために新しいパッケージの開発も行っています。
・ボトルの口を強いファイルで密封する
・ボトルキャップを締めた後にプラスチックのバンドで密封する
・外箱のフタは全てのりづけする
この方法は今の薬品や健康食品に通じるものがありますがジョンソン・エンド・ジョンソンが最初にはじめたものでした。
犠牲者を出し、本来なら企業存続の危機的状況にもかかわらず、クレドーに書かれた内容に忠実にしたがって考えて行動した結果、ジョンソン・エンド・ジョンソンの信頼が失われることはありませんでした。
その後1986年に2回目のタイレノール事件が起こります。
このときもジョンソン・エンド・ジョンソンはクレドーにしたがってタイレノールを全て回収し、タイレノールにさらなる改良を加えて対応しました。
このような対応はクレドーがなければできないことでした。
アメリカで2001年にエンロン社、そして2002年にワールドコム社が起こした不正会計事件がキッカケになり、コーポレート・ガバナンスの強化がさけばれるようになりました。
企業も従業員も使命感や倫理観をもたなければならないといことでアメリカの多くの企業でクレドが注目されるようになったのでした。
クレドーを活かすジョンソン・エンド・ジョンソンの取組み
ジョンソン・エンド・ジョンソンではクレド―を活かすためにどんな活動をしているのかカンタンに紹介したいと思います。
・クレド―・チャレンジ・ミーティング
クレド―・チャレンジ・ミーティングはジョンソン・エンド・ジョンソンの経営者と社員が、クレド―と会社の運営について丸一日かけてミーティングを行うことです。
もともとチャンジ・ミーティングは1975年に当時の会長が世界中の経営幹部を集めてミーティングを開催して、そのミーティングに参加した経営幹部たちが自分たちの会社でも同じようにミーティングを開催したことがはじまりだったそうです。
・クレド―・サーベイ
クレド―・サーベイは、ジョンソン・エンド・ジョンソンがクレド―の精神にそった経営ができているか社員にアンケートを実施する調査です。
ジョンソン・エンド・ジョンソンの全社員なので12万人が一斉にオンラインで行うそうです。
12万人ですから本当に正確な結果が出てきそうです。
・ダイバーシティ活動
ダイバーシティは多様性という意味があります。
民族や国籍や宗教、そして肌の色などジョンソン・エンド・ジョンソンには12万人を超える社員がいるのですからダイバーシティ活動はとても自然に感じます。
このダイバーシティ活動は、クレド―の『社員に対する責任』から実践されているものなのだそうです。
たくさんの取り組みがあるなかで3つの取り組みを紹介しました。
ジョンソン・エンド・ジョンソンではクレドーを浸透させるための取り組みというようりもクレドに書かれていることを実現するための取り組みが多いように感じました。
本当にクレド―が企業の中心であることがわかります。
まとめ
以上でクレドーとジョンソン・エンド・ジョンソンの関係についての記事を終わります。
クレドは世界的なホテル、リッツ・カールトンのクレドも有名で関連するビジネス書も数多く出版されているため、クレドはサービス業に適していると思われがちですが、そうではないことが今回わかっていただけたのではないでしょうか。
ジョンソン・エンド・ジョンソンのような250社以上のグループ企業と12万人を超える社員数を擁する巨大企業であっても、クレドによって企業と従業員の価値観の共有ができるのです。
だから中小企業や個人店でクレドが導入できないことはないと考えます。
会社の規模の大小や従業員の人数に関係なく、価値観の共有はクレドの導入で実現可能です。
《 参考文献 》
大切なことはすべてクレドーが教えてくれた 片山 修 (監修)
記事/友松はじめ
クレド勉強会 友松はじめ
勤務していた食品通信販売会社の業務に関連するセールスマーケティング書籍の他、心理学、自己啓発、加速学習等、あらゆるジャンルの本を1 日1~2 冊のペースで読むようになり、3,000 冊以上を読破。
本から得た情報を担当していたインターネット通販に活かし、売上げを月商数万円のレベルから月商1,000 万以上、年商1億のサイトに育てる
現在は、自身の経験を基にしたビジネス読書法講師、読書法を使った読書会ファシリテーターとして、活動中