著者:清水健一郎
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リーダーの本当の仕事、ボルドリッジ賞を目指す

私がリッツ・カールトン大阪在籍中に社内中が沸き立った時が何度かありましたが、その一つが、リッツ・カールトンがサービス業界で初めて2度のマルコム・ボルドリッジ国家品質賞受賞した時です。
マルコム・ボルドリッジ賞とは

最高レベルの品質管理を行っている米国企業を、連邦政府が認定する顕彰制度である。その名称は、レーガン政権時代に長年にわたり商務長官を務めた、マルコム・ボルドリッジの名に由来する。
この賞は、製造、サービス、中小零細企業、教育、医療、そして非営利の6部門で、優れた実績を上げた企業や団体に毎年授与される。その目的は、米国の企業や団体が海外の競争に負けない競争力をもつために、見習うべき模範を指し示すことにある。(254ページより引用)

もちろん、当時20代前半だった私は、「何その賞?」という感じで、マルコム・ボルドリッジ賞の事はチンプンカンプン。

しかし、会社から「マルコム・ボルドリッジ賞とは」という詳細にマルコム・ボルドリッジ賞について書かれたフライヤーが、各レストラン、ラウンジ、バーと配られ、お客様からマルコム・ボルドリッジ賞の事を聞かれた際は、説明がてらフライヤーをお渡しし、会社からスタッフ1人1人に配られたマルコム・ボルドリッジ賞のバッジを見せる。という事をやり始めて、ようやく賞の重みを感じたという思い出があります。

ちなみにマルコム・ボルドリッジ賞のバッチは今でも持っています。
今回の著書を読み進めていって、さらに「あ、なるほど!」と、驚きと納得を同時に感じたところがありました。それは

この賞の約束事として、受賞した企業は他の企業のためにドアを開き、求められれば、受賞に至る過程で学んだことをシェアしなくてはならない。たとえば私たちの場合、ディズニーのような有名企業からも、訪問インタビューの依頼を受けた。(258ページより引用)

実際、リッツカールトン大阪に来店された同業者のお客様に対して、クレドやラインナップ、リッツカールトン大阪がいかにしてビジョン達成に取り組んでいるかなど、質問されれば事細かにお話していましたし、会社からは「クレドに興味を持たれているお客様がおられるなら、こちらから、どんどんクレドカードを渡すように」と、指示を受けていました。

ですが、今回の著書を読み進めていくと、さらにシュルツ氏だけでなくボルドリッジ賞受賞のために尽力されていた関係者の方々の努力を再確認させられました。

相当なコストを要したのは事実だ。(261ページより引用)

使うべき時、使うべき事に“どかん!”とコストを使っていたあのシュルツ氏が言うのですから相当なコストですね。
つまり、それだけのコストがかかるという事は、周囲の理解を得るための労力も並大抵の事ではなかったということです。
詳しくは、今回の著書をご覧ください。

今回のコラムで私が注目したい事の一つが、周囲の理解を得る。
周囲の協力を得るために2度目のマルコム・ボルドリッジ賞受賞を狙うシュルツ氏に筆頭副社長が諦めるように説得にかかるのですが、逆にシュルツ氏が筆頭副社長を説得してしまいます。
その説得が見事といいますか、コツをつかめば割と簡単で誰にでも真似が出来そうなので、ご紹介させていただきます。

高い目標を掲げたリーダーが、どの様に仲間を説得し理解を得たのか。
では、コラムを進めて行きましょう

筆頭副者著から

「もう一度ボルドリッジ賞を獲りにいくというのですか? やりすぎです。合理的な判断とは思えません」(260ページより引用)

と言われたシュルツ氏が副社長に質問します。
それが

「言いたいことはわかるよ、エディー。実は、私もそう思っている。だが、たずねるけれど、もう一度応募すれば、私たちはみんなもっと勉強し、もっと学ぶ必要に迫られるんじゃないかな?」
「それは、そうなりますが」
「その結果、会社は少しでも良くなるだろうか?」
「良くなるでしょうね」
「それは投資家にとって望ましいことだろうか?」
「望ましいことでしょう」
「従業員は成長するだろうか?」
「成長するでしょう」
「関係者全員にとって有意義なことだろうか?」
「わかりました、やりましょう」(261ページより引用)

もう、お分かりでしょうね。
一度、相手に寄り添い、相手を理解している事を告げ、相手がシュルツ氏からのポジティブ質問に「YES」としか、答えられないのです。
しかも回答がメリットしかないのです。

では、「わかりました、やりましょう」と、しか言えなくなりますよね。
ここまでコラムを読み進めて頂いた方の中には、「筆頭副社長が『NO』や『BUT』を使わなかったから説得できたんじゃないの?」と言われる方もおられると思いますが、ここで「NO」「BUT」としか答えられない副社長なら、リッツ・カールトンの副社長になれるわけがありません。

だからこそ、リッツ・カールトンは2度もマルコム・ボルドリッジ賞を受賞する事ができたのです。

 

【編集後記】

クレドを研究している友松です。
本日の清水先生のコラムはいかがでしたか?

私もリッツ・カールトンの舞台裏を興味深く勉強できる『ゴールド・スタンダード』という本で、マルコム・ボルドリッジ賞を2回受賞したことを知りました。
まさに受賞したタイミングのとき清水先生はリッツ・カールトンで働いていたんですね。
その時の話をもっと聞きたくなりました。

シュルツ社長が副社長を説得するシーンを読んでいてNOと言えない方法として『YESセット』なんてテクニックがありますが、そもそもシュルツ社長と副社長が見ていた視点が違っていることがわかりますよね。

お二人ともに会社全体のことをみているのはまちがいないのですがシュルツ社長は目的思考型、副社長は問題回避型。
どちらの意見も正しいのだけれど、シュルツ社長が副社長に質問する内容から、費用と時間はかかるけど、自分の考えている問題は解決できるしもっとよくなるやん! と副社長は気づけたのだと思います。

リッツ・カールトンの副社長になれる人ですから、社長のYESマンではないでしょう。
だからシュルツ社長の描いていることが見えたのだと思いました。
適切な質問はとても大事ですね。

シュルツ社長と副社長のやりとりは、いっけん、2回目のマルコム・ボルドリッジ賞に挑むことを止めさせようとしている副社長をシュルツ社長が説得するしている印象をもちますが、そうじゃないと思いました。

副社長のコンフォート・ゾーンから抜け出す手助けをシュルツ社長がしたように見えました。

 

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この記事を書いた人

著者/清水健一郎

清水健一郎 ザ・リッツ・カールトン日本進出第一号ホテル、
ザ・リッツ・カールトン大阪のオープニングスタッフとして入社。身をもってクレドを実践する。
リッツ卒業後、数社のホテル、小規模飲食店をクレドによって立て直し、クレドがリッツ以外で経営に役立つことを証明する。
その後、オーナーサービスマンとして飲食店を開業。自ら経営者となる。

2013年に、これまでの経験を活かし出版した書籍が、ビジネス書では異例の2万5千部の販売を記録するヒットに。
失敗しない、小予算でできるクレド導入法を開発し、クレド導入を考える経営者や管理職の方へ無料レポートやクレド導入マニュアルを提供している。職場の信頼関係はクレドで作られる

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