著者:清水健一郎
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社員と会社の間の壁を乗り越える、ストライキ中の従業員に差し入れをする会社

今回のコラムは、シュルツ氏が修羅場を乗り越えた際のエピソードです。
シュルツ氏が、初対面の労働組合の幹部たちから

「クルマが爆破されることころをみたことあるか?」
「誰か人間が乗っているときのクルマと言う意味だがね」

などと脅迫されたた事を皮切りに、ストライキ、その他様々な嫌がらせを受けながらも数年後、最高のホテルをつくりあげる事に成功したシュルツ氏の話が書かれています。

今回の著書は、本当に読みごたえがあります。
今日、日本でホテル業に従事され出版された方々では、なかなか経験されない。
経験されていたとしても著書に書き載せる事のできない内容に驚かされました。

それでは、そんな修羅場でシュルツ氏は、どのような行動を取ったのか、どのような信念を持っていたのか今回のコラムをどうぞ。

 

社員と会社の間の壁を乗り越える、ストライキ中の従業員に差し入れをする会社

会社だけでなく、小規模の店舗でさえも経営者と従業員とでは壁が存在する場合があります。
実際、私事ですが、私という経営者と従業員の二人だけと言う環境の時もありました。
その二人だけだとしても雇う側と雇われる側と真逆ですからね。
それが、ホテルの規模になれば、雇用主(一人)対雇用者(多数)ですから、雇用主からすれば、壁を感じたらすぐに壁を取り除きたくなるのが心情ですね。

そんな中、てこ入れが必要なホテル数軒の立て直しが書かれており、その内容は、労働組合の幹部からの嫌がらせともとれるエピソードばかりで、普通のホテル支配人であれば精神を病み辞めていくのではないかと思われるほどです。

私は実際、精神、そして体を壊してホテルを去って行った上司、先輩を数多く見てきました。
もちろん部下、後輩もいまいした。
そんな上司、先輩とシュルツ氏との違いとは、もちろん精神力です。

精神を病んでしまったために体を壊す。
では、精神を病む事がなければ、強靭な精神を持っていれば体を壊す事もないわけです。
しかし、誰もがそんな強靭な精神力を持っているわけではありません。
では、なぜシュルツ氏はそんな強靭な精神力を持っていたのでしょうか?

著書の中かでシュルツ氏は、ミーティングの時間になっても姿を現さない労働組合の幹部に会うために、労働組合の本部に赴きます。
受付係に「幹部会議の最中です」と制止されたにも関わらず無視して部屋に乗り込み、

「何をやってるんだ。二人でやることがあるだろう。なんで来ない。来られないなら、電話して知らせろ」
彼は顏を赤らめて叫んだ。「ここはあんたが入っていい場所じゃない!」
「いいか、言っておくぞ。時間どおりに来い。そしてきみの組合のメンバー、そして私の従業員のために、やるべきことを一緒にやろうじゃないか!」(199ページより引用)

このやり取り後、少しは労働組合とのバランスが取れたそうですが、シュルツ氏は労働組合を信じたわけではなかったそうです。

私も今回の著書にでてくる労働組合とのやり取りのような事は何度もありました。
私が従業員に一つ譲歩したとしても、最初は感謝しますが、すぐに譲歩した状態が普通になり、さらなる要求を求めてきます。

また私が譲歩すれば、従業員は『要望すれば折れてくれる』と勘違いしてさらなる要望を申し出てきます。
それに対して拒むと、ヘソを曲げた態度をとるので話合いという言い争いの状態になります。

しかし、簡単に私が説き伏せてしまいます。
私もシュルツ氏同様、相手と違って、私は「やるべきこと」「なにをどこまで譲歩できるか」という判断基準があるからです。

その判断基準はリッツ・カールトンの修行時代、そして経営者になってからも日々、自問自答する癖(ラインナップでディスカッション)があったおかげで築けた判断基準です。だからこそ、簡単に従業員を説き伏せる事が出来るようになったのです。

しかし、人間と言うのは納得せざるを得ない理屈だけでは納得しないのです。
理屈ではなく感情で動くからです。
過去、一番言い争いの多かった従業員がいつも言うのは、「清水さんと口喧嘩しても僕が勝てるわけない。ずるい。」

私的には口喧嘩をしているつもりはなく、彼の言い分に答えただけなので、「それって、お前は、お前自身が言っている事がズレてる。と、認めているわけだろ。そして、オレに簡単に説き伏せられるのは、お前に一本筋の通った信念がないし、言っていることがいつも感情に流されているから一貫性がないからだ。」と、やり取りしていました。

そして、話はシュルツ氏に戻しますが、クリスマスに事件は起こったそうです。
ストライキです。

その時、一番にシュルツ氏が行った事は

その日はたまたますごく寒い日だった。私はキッチンとレストランの責任者を呼んで指示を出した。「急いで、熱いアップルサイダーをつくってください。何でもいいから甘いケーキロールと熱いコーヒーも準備してください。外でストを打っている従業員に差し入れをするんです。」(201ページより引用)

そう、ストライキを起こしている従業員に対して差し入れです。
ストライキをテレビで報じられていたそうですが、ニュース・クルーが到着した時、組合員に温かい飲み物と振る舞っている最中だったそうです。
困惑したテレビ・レポーターがシュルツ氏にマイクを向け

「何をしているんですか?」
「差し入れですよ。彼らは全員、うちの従業員ですから」と私は答えた。「ちょっとした行き違いのせいで、一時的に持ち場を離れることになってしまいましたが、私どもにとって彼らが重要な存在であり、私が彼らを大切に思っていることに、なんら変わりはありません。外は寒いので、温かい飲み物と甘いものを差し入れしただけです」夜のニュースでこれが取り上げられた。どれほど大きな効果をもたらしたか、想像していただきたい。(201ページより引用)

シュルツ氏がなぜ強いのか?
私は、シュルツ氏は信念を持っているからだと思っています。
正しいと信じて疑わない気持ちが、シュルツ氏を強くしたのだと思います。

私自身も辛い修行時代を乗り越えられたのは、「リッツ・カールトンでの修行は、どんなに辛くても自分を大きく成長させてくれる。」と、疑わなかった事を思い出します。
経営者になって、苦しい経験を何度も何度も経験しました。

しかし、信念を持っていたからこそ乗り越えられたのだと思っています。実はその都度、その都度、信念が微妙にちがったりもしました。
なぜなら私は、苦しい経験をするたびに信念を探す癖があるのです。

修行時代を乗り越える信念、後輩ができ先輩になった時の信念、経営者になって従業員を雇用した時の信念は違って当然であり、信念も成長させていく必要があるのだと思うのです。

今回、シュルツ氏の行動を考えると、これは私の想像でしかありませんが、現状をいち早く把握し、その時、必要な信念をうまく使い分けているように思いました。
実際、今回のエピソードの様に従業員を大切にしているシュルツ氏も、「この従業員ではダメだ」と決断して解雇しているシュルツ氏も元リッツ・カールトンのスタッフである私は知っているからです。

 

【編集後記】

クレドを研究している友松です。
本日の清水先生のコラムはいかがでしたか?

経営者は、従業員は働かない、いい人材が集まらない、などと言う。
従業員は、給料が安い、残業が多い、ブラック企業だ、社長がワンマンだ、などと言う。

水と油。
どちらも言っていることは分かります。
そうだと思います。

相容れないものだとしたら双方が歩み寄るのも解決方法のひとつかと思います。
何が正しいと思うか、何を信じるのが正しいのか。
この判断基準を『クレド』にして、経営者も従業員も共通の基準で考えるとお互いを認めて歩み寄れるはずだと思います。

 

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この記事を書いた人

著者/清水健一郎

清水健一郎 ザ・リッツ・カールトン日本進出第一号ホテル、
ザ・リッツ・カールトン大阪のオープニングスタッフとして入社。身をもってクレドを実践する。
リッツ卒業後、数社のホテル、小規模飲食店をクレドによって立て直し、クレドがリッツ以外で経営に役立つことを証明する。
その後、オーナーサービスマンとして飲食店を開業。自ら経営者となる。

2013年に、これまでの経験を活かし出版した書籍が、ビジネス書では異例の2万5千部の販売を記録するヒットに。
失敗しない、小予算でできるクレド導入法を開発し、クレド導入を考える経営者や管理職の方へ無料レポートやクレド導入マニュアルを提供している。職場の信頼関係はクレドで作られる

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