著者:清水健一郎
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お客様の期待を超えて、さらに1マイル遠くまで行く

お客様の期待を超えて、さらに1マイル遠くまで行く

今回のコラムは、今まで何度も出てきているリッツ・カールトンの伝説的なサービスエピソード「ワォストーリー」です。
今まで何度も出てきている「ワォストーリー」ですが、今回もまたご紹介させていただきたいと思ったのは、初代社長シュルツ氏が、リッツ・カールトンにおいて「ワォストーリー」の重要性を語っていることにあります。

すこし、皆さんにはピンとこないかもしれませんが、リッツ・カールトンのサービスの現場を経験した者、とくに今、リッツ・カールトンのサービスの現場で働く者にとっては、とても大きな意味を持ちます。

リッツ・カールトンのスタッフ達からすれば、初代社長ホルス・シュルツ氏が、著書の中で、具体的なサービス事例をあげ、今回紹介させていただくケースでの判断について背中を押していると言う事を知ることでサービスの現場で働く者からすれば、心の安心、自信につながるのです。

「初代社長のシュルツ氏が、この様なサービスを推奨している」
「初代社長のシュルツ氏が、この様なサービスを実行するにあたって、上司に相談なしにエンパワーメント・マネー(2000ドル)を使用することを推奨してくれている」
となると世界中のスタッフ達は、サービスを行う際、迷いなく実行できますし、お金が掛かるのであっても、2000ドルも後ろめたさを感じず実行に移せます。

「エンパワーメント・マネーを使いたいが、後で上司に怒られないだろうか?」という不安を一掃してくれているように私は思うのです。

リッツ・カールトンのサービスとその他のホテルのサービスの大きな違いがこのエンパワーメントならびにエンパワーメント・マネーです。
これら2つがあるのとないのでは、なにがそんなに違いが出るかと言うと私は「サービスのリミッター解除」だと思っています。
エンパワーメントならびにエンパワーメント・マネーのおかげで、サービスの限界値がとても高くなります。

著書の中のエピソード

メキシコ・カンクンのリッツ・カールトンに新婚旅行で訪れたカップル。
なんと新郎がビーチで結婚指輪を落としてしまい二人はひどく落ち込んでいました。
ホテルのスタッフ達も夫婦と一緒に必死になって探しましたが、見つける事はできませんでした。

ビーチに夜の帳が下りてもまだ、4人のスタッフ達はあきらめず、彼らは自らの判断で街に行き、自由裁量で使える2000ドルのエンパワーメント・マネーを使って、4台の金属探知機を買い、またビーチに戻ったそうです。
翌朝、朝食のためにレストランに入ってきた二人をテーブルの上に置かれた結婚指輪が待っていたそうです。

感激されたご夫婦は、支配人、リッツ・カールトンの幹部たちにも賞賛の手紙を書き(それでシュルツ氏もこのエピソードを知ったそうです)そして、メディアもこのストーリーを報じリッツ・カールトンにとって、ありがたいパブリシティになったそうです。

4人が金属探知機を購入する許可を求めていたら、たぶん上司は1台しか許可しなかっただろう。だが、4人はあえて上司に相談せず、自分たちの判断で行動した。彼らはこの夫婦に、ここが世界最高のホテルチェーンであると知ってもらうために、夫婦の期待を超えて、さらにもう1マイル先まで行こうと決めたのだ。

私はよく
「なぜ、リッツ・カールトンは『ワォストーリー』が生まれるの?」
「なぜ、リッツ・カールトンで、エンパワーメントがうまく機能するの?」
「2000ドルの決裁権をスタッフひとりひとりに持たす事に会社は怖くないの?」
「スタッフは、なぜ躊躇なくエンパワーメント使用を判断できるの?」
と聞かれます。

確かにスタッフひとりひとりに2000ドルの決裁権を持たせて、自分勝手に使われ会社に損失額が発生するのでは? と考える会社が多かったと思います。
そして従業員からしても会社が、エンパワーメントを使うように進めたとしても、躊躇してしまいがちです。

「エンパワーメント・マネーを使いたいけど、後で上司に叱られるのでは?」
と考えてしまいます。
躊躇なくエンパワーメントならびにエンパワーメント・マネーを使うためには、日々のトレーニングが必要になります。

実際にエンパワーメントを使うトレーニングではありません。
それこそ会社が倒産してしまいます。
エンパワーメントを使うイメージトレーニングをリッツ・カールトンのスタッフ達は行っているのです。

そのイメージトレーニングこそ、何度も出てきているラインナップ(リッツ・カールトン式朝礼)でのディスカッションなのです。
ラインナップの際、世界中から伝えられる「ワォストーリー」でディスカッションします。

ラインナップリーダー
「皆さん、今回、伝えられたワォストーリーのようなサービスケースの際は、エンパワーメントを使いましょう。今回のワォストーリー以上のサービスを提供するには、もっとより良いエンパワーメントの使い方はありますか?」

などなど、質問の仕方もその時のラインナップリーダーによって変わっていきます。
質問に対する返答、アイデアもスタッフそれぞれでてきます。
このようにお客様を喜ばすためのサービストレーニングを毎日ラインナップで行っているのです。

常に100%のお客様を喜ばす事はできない。しかし、そうしようと努力すべきだし、そうすることで失うものは何もない。

 

【編集後記】

クレドを研究している友松です。
本日の清水先生のコラムはいかがでしたか?

今回はエンパワーメントのお話でした。
私が働いていた会社では、上司に相談することによってチャンスをのがしたり、さらなるクレームに発展することがありました。
上司に相談することは、自分を守るためにも大切なことではあるのですが、相談しなくても予想がつくことってありますよね。

金属探知機の話は驚く話ですし、機械購入の費用は大変なものだったでしょう。
しかし従業員たちがおこなった1マイル先にいくサービスがすごすぎて、話題になったことで金属探知機4台分の費用を上回る広告効果があったのではないでしょうか。

 

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この記事を書いた人

著者/清水健一郎

清水健一郎 ザ・リッツ・カールトン日本進出第一号ホテル、
ザ・リッツ・カールトン大阪のオープニングスタッフとして入社。身をもってクレドを実践する。
リッツ卒業後、数社のホテル、小規模飲食店をクレドによって立て直し、クレドがリッツ以外で経営に役立つことを証明する。
その後、オーナーサービスマンとして飲食店を開業。自ら経営者となる。

2013年に、これまでの経験を活かし出版した書籍が、ビジネス書では異例の2万5千部の販売を記録するヒットに。
失敗しない、小予算でできるクレド導入法を開発し、クレド導入を考える経営者や管理職の方へ無料レポートやクレド導入マニュアルを提供している。職場の信頼関係はクレドで作られる

 

記事/友松はじめ

クレド勉強会 友松はじめ

勤務していた食品通信販売会社の業務に関連するセールスマーケティング書籍の他、心理学、自己啓発、加速学習等、あらゆるジャンルの本を1 日1~2 冊のペースで読むようになり、3,000 冊以上を読破。
本から得た情報を担当していたインターネット通販に活かし、売上げを月商数万円のレベルから月商1,000 万以上、年商1億のサイトに育てる

現在は、自身の経験を基にしたビジネス読書法講師、読書法を使った読書会ファシリテーターとして、活動中

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