自分の仕事をストップしてでも仲間の仕事を助ける / 伝説の創業者が明かす リッツ・カールトン 最高の組織をゼロからつくる方法 ホルスト・シュルツ(著)
はじめに正直に言います。
『自分の仕事をストップしてでも仲間の仕事を助ける』について、リッツ在籍中の記憶の中にコレっと言うエピソードがたいしてありません。
「今回のコラムは書きにくいな」と思って読み進めていくと、私はハッとしました。
それは、問題を抱えた何十もの企業を手助けしてきたコンサルタントが、うまくいかなくなった会社で社員の話を聞いていると共通して耳に入ってくる2つの危険信号と言うのを紹介されていたからです。
最初の危険信号は、「彼ら」という代名詞だ。
危険信号の2つ目は、「それは私の担当ではない」
つまり、できない理由を人のせいにする。そして、自分以外のスタッフに対して、自分の仕事以外に対して無関心なのです。
著書でも書かれているとおり
「そうしたいが、彼らがそうさせてくれない」
「彼らのせいで失敗した」
「彼らが理解してくれない」
私が入社して1年目、新卒社員同士でよくこの2つの危険信号を使っていたように思います。
その際どうなったか、先輩上司の前で口にしたとたん
「清水、責任転換か?」
「クレドカードに書かれている事は無視か?」
「じゃ~完全にお前は無関係なんやな?と、言うことは、お前はリッツのスタッフじゃないんやな?」
などなど、恐ろしい顏をされた先輩や上司にこっぴどく叱られました。
しかし一年後、私にも後輩が出来て、先輩や上司とまったく同じ事を後輩に言って指導していました。
- 「そうしたいが、彼らがそうさせてくれない」
- 「彼らのせいで失敗した」
- 「彼らが理解してくれない」
- 「それは私の担当ではない」
これらの言葉を使いたい時は、誰しもあります。
使う事が許されないというのは、時に理不尽にも思える場合があります。
なぜ、リッツのスタッフ間で、この2つの危険信号が出てこないのか?
それは、ラインナップ(リッツ式朝礼)でのディスカッション(質疑応答)があったからです。
私が在籍中のクレドカードでは、ベーシックの半分以上が、スタッフひとりひとりが自身の事、自身の問題と受け止め責任転換を許さない文脈になっていました。
例えばベーシックの11
妥協のない清潔さを保つのは、従業員一人一人の役目です。
このベーシックにつてのディスカッションはこのような内容です。
先輩:「清水、このベーシック11は実践しているか? 具体的に実践した事を発表してください」
私:「はい、今日の私の仕事はランナー(厨房から接客担当のところまで料理を運ぶ係)ですが、冷蔵庫やコーヒーマシーンの近くを通る事もあります。そんな時、汚れを見つけたらすぐ汚れを拭き取ります」
先輩:「いきなり総支配人が来て、清水以外が汚した汚れを指さし『汚れているぞ!なぜ綺麗にしない!』と、一番近くにいる清水に対して叱ってきたらどうする?」
清水:「はい、ベーシックの11に書かれているように・妥協のない清潔さを保つのは、従業員一人一人の役目なので、私が責任もって綺麗にします」
と、言うディスカッションをしていました。
実際、上司の方々は、その場で「汚れているぞ!なぜ綺麗にしない!」と、近くにいるスタッフに対して注意しましたが、彼らはプロフェッショナルです。
本当に汚した人が誰なのか、そのくらいすぐに分かっていました。
ただ、汚れたままの状態を放置しておくことが、職場のスタッフの無責任、無関心につながる事を嫌うのです。
もちろん、著書にあるように「自分の仕事をストップしてでも仲間の仕事を助ける」についても何度も何度もディスカッションをしました。
私の在籍中のクレドカードで言うとベーシックの6、7、9、10あたりでしょうか。
今回のコラムの冒頭で、「自分の仕事をストップしてでも仲間の仕事を助ける」について、リッツ在籍中の記憶の中にコレっと言うエピソードがたいしてありませんと言ったのは、リッツのスタッフ間では、当たり前すぎてこれといって記憶になかったからです。
確かに他部署のスタッフの方々に助けて頂いた事は多々ありましたし、さすがの私も覚えています。
ただし私が何か他部署の方々にしたことはほとんど覚えていません。
おそらく他部署の方々もされた事は覚えていても、した事はほとんど覚えてらっしゃらないと思います。
クレドカードを使ったラインナップ、そして、ディスカッション、いまさらながらですが、本当に素晴らしい習慣だったと思います。
先程、私が言った。
私が在籍中のクレドカードでは、ベーシックの半分以上が、スタッフひとりひとりが、自身の事、自身の問題と受け止め責任転換を許さない文脈になっていたと言いました。
一度、私が在籍当時のクレドカードの中身をごらんください。
・クレド(信条)
リッツ・カールトン・ホテルは
お客様への心のこもったおもてなしと
快適さを提供することを
もっとも大切な使命とこころえています。私たちは、お客様に心あたたまる、くつろいだ
そして洗練された雰囲気を
常にお楽しみいただくために
最高のパーソナルサービスと施設を提供することをお約束します。リッツ・カールトンでお客さまが経験されるもの、
それは、感覚を満たす心地よさ、
満ち足りた幸福感
そしてお客様が言葉にされない
願望やニーズをも先読みしておこたえする
サービスの心です。
・モットー
We are Ladies and Gentlemen Serving Ladies and Gentlemen
・サービスの3ステップ
1
あたたかい、心からのごあいさつを。
お客様をお名前でお呼びするよう心がけます。2
お客様のニーズを先読みしお答えします。3
感じのよいお見送りを。
さようならのごあいさつは心をこめて。
できるだけお客様のお名前をそえるよう心がけます。
・従業員への約束
リッツ・カールトンでは
お客様へお約束したサービスを
提供する上で、紳士・淑女こそが
もっとも大切な資源です。信頼、誠実、尊敬、高潔、決意を
原則とし、私たちは、個人と会社の
ためになるよう、持てる才能を育成し、
最大限に伸ばします。多様性を尊重し、充実した生活を深め、
個人のこころざしを実現し、リッツ・カールトン・ミスティーク
(神秘性)を高める・・・
リッツ・カールトンは、このような
職場環境をはぐぐみます。
・ザ・リッツ・カールトン・ベーシック
1.クレドは、リッツ・カールトンの基本的な信念です。全員がこれを理解し、自分のものとして受けとめ、常に活力を与えます。
2.私たちのモットーは、「We are Ladies and Gentlmen Serving Ladies and Gentlmen」です。私たちはサービスのプロフェッショナルとして、お客様や従業員を尊敬し、品位を持って接します。
3.サービスの3ステップは、リッツ・カールトンのおもてなしの基本です。お客様と接するたびに、必ず3ステップを実践し、お客様に満足していただき、常にご利用いただき、ロイヤリティを高めましょう。
4.「従業員への約束」は、リッツ・カールトンの職場環境の基盤です。すべての従業員がコレを尊重します。
5.すべての従業員は、自分のポジションに対するトレーニング修了認定を受け、毎年、再認定を受けます。
6.カンパニーの目標は、すべての従業員に伝えられます。これをサポートするのは、従業員一人一人の役目です。
7.誇りと喜びに満ちた職場を作るために、すべての従業員は、自分が関係する仕事のプランニングに関わる権利があります。
8.ホテル内に問題点(MR BIV)がないか、従業員一人一人が、いつもすみずみまで注意を払いましょう。M(mistake)ミス R(rewark)やり直し B(broken-down)破損 I(inefficiently)非効率 V(variety)ばらつき
9.お客様や従業員同士のニーズを満たすよう、従業員一人一人には、チームワークとラテラルサービスを実践する職場環境を築く役目があります。
10.従業員一人一人には、自分で判断し行動する力が与えられています。(エンパワーメント)。お客様の特別な問題やニーズへの対応に自分の通常業務を離れなければならない場合には、必ずそれを受けとめ、解決します。
11.妥協のない清潔さを保つのは、従業員一人一人の役目です。
12.最高のパーソナル・サービスを提供するため、従業員には、お客様それぞれのお好みを見つけ、それを記録する役目があります。
13.お客様を一人として失ってはいけません。すぐにその場でお客様の気持ちを解きほぐすのは、従業員一人一人の役目です。苦情を受けた人は、それを自分のものとして受けとめ、お客様が満足されるよう解決し、そして記録します。
14.いつも笑顔で。私たちはステージの上にいるのですから。」いつも積極的にお客様の目を見て応対しましょう。お客様の目をみて応対しましょう。お客様にも、従業員同士でも、必ずきちんとした言葉づかいを守ります。(「おはようございます。」「かしこまりました。」「ありがとうございます。」など)
15.職場にいる時も出た時も、ホテルの大使であるという意識を持ちましょう。いつも肯定的な話し方をするよう、心がけます。何か気になることがあれば、それを解決できる人に伝えましょう。
16.お客様にホテル内の場所をご案内する時には、ただ指さすのではなく、その場所までお客様をエスコートします。
17.リッツ・カールトンの電話対応エチケットを守りましょう。呼び出し音3回以内に、「笑顔で」電話を取ります。お客様のお名前を出来るだけお呼びしましょう。保留にする場合は、「少しお待ちいただいてよろしいでしょうか?」とおたずねしてからにします。電話の相手の名前をたずねて、接し方を変えてはいけません。電話の転送はなるべく避けましょう。
18.自分の身だしなみには誇りを持ち、細心の注意を払います。従業員一人一人には、リッツ・カールトンの身だしなみ基準に従い、プロフェッショナルなイメージを表す役目があります。
19.安全を第一に考えます。従業員一人一人には、すべてのお客様と従業員に対し、安全で、事故のない職場を作る役目があります。避難、救助方法や非常時の対応すべてを認識します。セキュリティに関するあらゆる危険な状況は、ただちに連絡します。
20.リッツ・カールトン・ホテルの資産を守るのは、従業員一人一人の役目です。エネルギーを節約し、ホテルを良い状態に維持し、環境安全につとめます。
【編集後記】
クレドを研究している友松です。
本日の清水先生のコラムはいかがでしたか?
考えさせられますし今回のコラムのような職場環境を作ることができたらどんなに素晴らしいだろうと思います。
私が在籍していた会社の例でいうと、10数年前不景気の真っ只中で今とは逆の買い手市場でした。
つまり企業が強く求人募集をすると今よりもカンタンに多くの募集があった時代です。
私もその会社に転職するときは応募者が100人を超えていました。
今では考えられないですよね。
その会社で能力評価制度が導入され、個人がどれだけ会社に貢献したか、自分の能力をどれだけ伸ばしたかという評価を数字で表すようになりました。
しばらくするとおもしろいことに、だれも協力しなくなるんです。
理由は手伝っても手伝った人の評価になって人を手伝うことが能力評価の対象にならないから。
そしてもう一つ。
能力がある人がもっている情報をシェアしなくなりました。
指導もしないのです。
理由はカンタンです。
シェアしたら教えた相手が自分より仕事ができるようになってしまったら、自分の評価が下がってしまう可能性があるから。
こういう能力主義だと、他人が汚した汚れを率先してキレイにするとか、後輩を厳しくしどうするとか、そういう企業文化は絶対に生まれません。
- 「そうしたいが、彼らがそうさせてくれない」
- 「彼らのせいで失敗した」
- 「彼らが理解してくれない」
- 「それは私の担当ではない」
そしてこのような考え方や文化が普通になってくるはずです。
でもそれが悪いというわけではなくて経営者がどんな会社の姿を望むか、そこにつきると思います。
そのためにもビジョン、ミッションの明文化、文章化って清水先生がいっているように大切なことだと思います。
そこが決まってないとブレますから。
この記事を書いた人
著者/清水健一郎
清水健一郎 ザ・リッツ・カールトン日本進出第一号ホテル、
ザ・リッツ・カールトン大阪のオープニングスタッフとして入社。身をもってクレドを実践する。
リッツ卒業後、数社のホテル、小規模飲食店をクレドによって立て直し、クレドがリッツ以外で経営に役立つことを証明する。
その後、オーナーサービスマンとして飲食店を開業。自ら経営者となる。
2013年に、これまでの経験を活かし出版した書籍が、ビジネス書では異例の2万5千部の販売を記録するヒットに。
失敗しない、小予算でできるクレド導入法を開発し、クレド導入を考える経営者や管理職の方へ無料レポートやクレド導入マニュアルを提供している。職場の信頼関係はクレドで作られる
記事/友松はじめ
クレド勉強会 友松はじめ
勤務していた食品通信販売会社の業務に関連するセールスマーケティング書籍の他、心理学、自己啓発、加速学習等、あらゆるジャンルの本を1 日1~2 冊のペースで読むようになり、3,000 冊以上を読破。
本から得た情報を担当していたインターネット通販に活かし、売上げを月商数万円のレベルから月商1,000 万以上、年商1億のサイトに育てる
現在は、自身の経験を基にしたビジネス読書法講師、読書法を使った読書会ファシリテーターとして、活動中