著者:清水健一郎
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顧客サービスはお客様と接する人だけの仕事ではない

今回の著書の中で

顧客サービスとは、実際にお客様と接する社員だけの仕事ではない。お客様とダイレクトに接することはなくても、組織の中で他の社員のために仕事をしている人にとっての仕事でもある。すべての仕事がつながって、その会社の顧客サービスが成功するか失敗するかが決まる。(47ページより引用)

私がリッツ・カールトン退職後、派遣社員としていくつかのホテルで働かせていただいた経験を踏まえて、「リッツ・カールトンと他のホテルとの一番の違いは?」と質問されると間違いなく、この考えが社内にあるかないかではないでしょうか。
リッツ・カールトンにこの考え方があるからこそサービスという分野で他のホテルとの差別化ができ、そして安売り競争などに巻き込まれずサービス向上に集中できたのだと確信をもっています。

あらゆる部署のすべての社員は、誰が自分にとっての社内のお客様であるかを把握しておく必要がある。(48ページより引用)

同じ職場、社内で働いている全てのスタッフ達、全ての仕事につながるために、私がリッツ・カールトン在籍中、スタッフ達は「内部外部のお客様のニーズを先読みし対応する」と、いって、これもラインナップで、定期的にディスカッションしていました。

「内部のお客様のニーズ」と聞いて、どのようなお客様を想像しますか? 察しの良い方は、もうお分かりだと思います。
そう、内部のお客様とはスタッフ同士です。
私達リッツ・カールトンのスタッフ達は、スタッフ同士でニーズの先読みをして、お互いが仕事をしやすいように仕事をしていたのです。

ぱっと皆さんが想像できるのは、いかに社長が仕事をしやすいように社長の先読みをして仕事をする。秘書の様なお仕事ではないでしょうか?
確かに秘書の仕事や部下の上司に対する仕事は、いかに社長、上司が気持ちよくスムーズに仕事ができるかですが、逆に社長や上司が、秘書や部下が、仕事をしやすいように秘書や部下のニーズの先読みをしているでしょうか?

リッツ・カールトンでは、むしろ立場が上がるにつれて部下も多くなるため、様々なニーズの先読みが必要となってくるのです。
つまりリーダーは多くの部下のニーズに寄り添うからこそリーダーとして部下たちが付いてくるのです。
そして、これらを踏まえて生み出される組織作り、組織の考え方こそが、リッツ・カールトンの真骨頂なのです。

たとえ話ですが、レンガを積んで城を作っている一人の男がいるとします。

  1. レンガを積む事が彼の仕事なのでしょうか?
  2. レンガを積んで強固な壁を造る事が彼の仕事なのでしょうか?
  3. レンガを積んで強固な壁を造り城を作る事が彼の仕事なのでしょうか?
  4. レンガを積んで強固な壁を造り城を作り王を守る事が彼の仕事なのでしょうか?
  5. レンガを積んで強固な壁を造り城を作り王を守り国を守る事が彼の仕事なのでしょうか?
  6. レンガを積んで強固な壁を造り城を作り王を守り国を守り自身の家族を守る事が彼の仕事なのでしょうか?

私が仮に王だとすると、6のレンガを積んで強固な壁を造り城を作り王を守り国を守り自身の家族を守る事が彼の仕事になるように彼の意識を変えようとします。

リッツ・カールトン在籍中、新卒社員だった私の仕事の大部分が、レストランに勤務していたということもありグラスやカトラリーを磨く仕事をよくしていました。
毎日、毎日山のようなグラスやカトラリーを磨いていると、正直、嫌になってきます。

しかし、汚れたフォークやスプーン、グラスなどが、もしお客様に出されてしまったら、お客様の楽しいレストランでの食事が台無しなってしまいます。
グラス一つ、フォーク一つ気を抜く事なく磨き上げるのは、正直、体力よりも神経、心が疲れます。

そんなとき、先輩サービスマン達に「グラスを磨いているのではない。お前がお前の心を磨いていると思え。汚れが残っているということは、お前の心に『これでいいや』と、言う心の汚れがあるからだ」とよく言われました。

実際、今、修行時代を振り返ってみると、一流の職場で働くには、一流の気概が必要だと実感されます。
新卒社員の仕事もお客様、顧客サービスにつながっているのです。
そして、スタッフ全員が、カトラリー、グラスを磨き上げる事を6のレンガを積む男のようにとらえられれば、最強の組織が出来上がります。

リッツ・カールトンの場合、カトラリー、グラスを美しく磨き上げることは、5つ星ホテルにするために必要不可欠であり全国ナンバーワンホテルになるための仕事であると、アルバイトですら理解していました。

その方法は、先ずラインナップでディスカッション。
そのディスカッションに必要なものは、ミッション・ステートメント・ピラミッドと言う方法を使っていました。

ホルスト・シュルツ氏いわく

昨日入ったばかりの皿洗いから経営トップまで、ホテルで働く全員が、自分の一番の仕事は、お客様に満足していただくために協力することだと肝に銘じる必要がある。(48ページより引用)

私も新卒社員の際、ラインナップのディスカッションの際、先輩から「清水、リッツ大阪が5つ星ホテルになるために今日、おまえは何を注意して仕事をする?」と、いう具合に質問を頂きました。

  • 「お客様が着席される際、テーブル前に来られるタイミングで椅子を引いて、座られるタイミングで椅子を押してお座りいただきます」
  • 「お客様のお水がなくなる前に注ぎに行きます」
  • 「おしぼりをお客様が気持ちよくお使いいただけるように、綺麗にまき直ししておきます」
  • 「先輩のニーズにも注意を払って、アイコンタクトで意思疎通を行いスムーズに仕事を進めます」

など、答えは単純で毎回違っていましたが、どれも5つ星ホテル、全国ナンバーワンのホテルになるために必要なことばかりでした。

 

【編集後記】

クレドを研究している友松です。
本日の清水先生のコラムはいかがでしたか?

会社はそれぞれ部署毎にやっている仕事がちがいますし、これって意味あるんだろうか? と思うような仕事も多々あります。
本当に意味の無い仕事もあるにはありますが、それらの仕事がつながって会社の業務が成り立っているものです。

本当は意味のある仕事なのに、例えば喜んでいるお客様の顔が見えないなど、その先が見えないときは今回のコラムで清水先生が書いているように辛くなるものです。
ホルスト・シュルツさんはいつもこう言っていたそうです。

「従業員にビジョンなき仕事をさせるのは罪」

つまり、従業員ひとり一人が夢を持ち、その夢を受け入れるだけの器があり仕組みがある会社こそがリッツ・カールトンでした。
本来意味のない仕事ってないはずですよね。
どの従業員も自分の仕事に意味をもてる仕組みがクレドなんですよね。

 

 

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この記事を書いた人

 

著者/清水健一郎

清水健一郎 ザ・リッツ・カールトン日本進出第一号ホテル、
ザ・リッツ・カールトン大阪のオープニングスタッフとして入社。身をもってクレドを実践する。
リッツ卒業後、数社のホテル、小規模飲食店をクレドによって立て直し、クレドがリッツ以外で経営に役立つことを証明する。
その後、オーナーサービスマンとして飲食店を開業。自ら経営者となる。

2013年に、これまでの経験を活かし出版した書籍が、ビジネス書では異例の2万5千部の販売を記録するヒットに。
失敗しない、小予算でできるクレド導入法を開発し、クレド導入を考える経営者や管理職の方へ無料レポートやクレド導入マニュアルを提供している。職場の信頼関係はクレドで作られる

 

記事/友松はじめ

クレド勉強会 友松はじめ

勤務していた食品通信販売会社の業務に関連するセールスマーケティング書籍の他、心理学、自己啓発、加速学習等、あらゆるジャンルの本を1 日1~2 冊のペースで読むようになり、3,000 冊以上を読破。
本から得た情報を担当していたインターネット通販に活かし、売上げを月商数万円のレベルから月商1,000 万以上、年商1億のサイトに育てる

現在は、自身の経験を基にしたビジネス読書法講師、読書法を使った読書会ファシリテーターとして、活動中

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