著者:清水健一郎
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クレドはマニュアルではない

今回の読書コラムですが、私だけでなくクレドについて深く関わっている人なら、必ず一度は質問を受ける「クレドとマニュアルの違い」について触れられています。

「クレドはマニュアルと同じですよね。」と、よく誤解されますので、その点についても触れておきます。(41ページより飲用)

「クレドとマニュアルは同じもの」という意見をよく頂くと、故林田正光元リッツ・カールトン大阪営業支配人も同じ事を仰っておられた事を思い出します。
林田さんは一時期、よく「クレドは最高のマニュアルですね」と、言われたそうです。

私的に「あんなに大雑把なマニュアルは、機能しないでしょ」と思うのですが、マニュアルだと勘違いされておられる経営者が、リッツ・カールトンのクレドを見様見真似で作り、クレド経営を行ったとすれば、残念な事に失敗しかありません。
では、クレドとマニュアルについて、今回の著書と私の見解を含めながらコラムを進めていきましょう。

私の考えですが、経営や仕事にクレド(信条)は本当に大切なものです。
それに対してマニュアルは、必要かもしれませんが大切なものではないと思っています。
私事で申し訳ないのですが、オープニングスタッフということもあるのですが、まだマニュアルが作られる前だったので、リッツ・カールトン大阪在籍中、マニュアルに沿ってサービスを行った経験は、ほとんどありません。

マニュアルに従って仕事を行ったのは、会計やボトルキープのシステムくらいでした。
それでも、リッツ・カールトン大阪は、世間から高評価を受けました。

なぜか?
クレドがあったからです。
クレドが、世間から高評価を受けるサービスを生み出していたからです。

私はこの話をする際、よくマニュアル、レシピ、楽譜、歌詞カードを例に出してお話させていただいています。
私にとって、この4つは同じ様なもので、必要ですが、大切なものではない。と思っています。

例えば、楽譜さえあれば誰でも素敵な音楽を奏でる事が出来ますか?
楽器を操るスキルがあってこそ、素敵な音楽を奏でる事ができますよね。

歌詞カードがあれば感動させる歌が、誰でも歌えますか?
音痴な人に歌詞カードを渡しても、人を感動させる歌は歌えません。歌唱力も必要ですし歌に込める気持ちを表現する力がなければ人を感動させる事もできません。

料理を作った事のある人なら、レシピがあれば、誰でも美味しい料理を作る事ができる訳ではない。というのも理解していただけると思います。
日頃、料理を全くしない旦那さんが、日曜日に料理のレシピ本片手に料理をしたら、キッチンは散らかり放題、できた料理を美味しいと言って食べるのは、作った当人だけ、と、とんでもない事になって、「もう、二度と料理作らなくていい」と、うんざりした奥さんも、少なくはないのではないでしょうか?

そして、マニュアルがなくても、リッツ・カールトンのサービスが成り立っています。
つまりマニュアル、レシピ、楽譜、歌詞カードは、必要かもしれませんが、大切なものではないです。

実際にその道のプロフェッショナル達なら・・・
楽譜が無くても、一度、曲を聞けば、その曲を奏でる事が出来ます。
歌詞カードを見ながら歌う歌手はいませんよね。
食材を見ただけでレシピが無くても料理の献立を決めて、分量も目分量で美味しい料理を作ります。

マニュアルがなくても、微妙な現場判断で的確なサービスを提供することができます。

しかし、そこにクレド、つまり信条(行動をする上で自分が正しいと堅く信じて守っている事柄)が無ければ、プロの仕事として成り立たなくなります。
楽譜や歌詞カードが無くても音楽を奏でる事が出来たとします。
レシピなしで料理が作れても、マニュアルなしでサービスができても信条がなければ、感動が生まれるでしょうか?

著書の中で実島氏は、クレドとマニュアルの違いを分かりやすく説明されているので紹介させてください。

クレドは、社員の価値観にはたらきかけるものです。よりよい価値観を共有することにより、自らの頭で考え、自らの意思でとる行動を良くしてもらおうというのが本質です。それに対しマニュアルは、一定の状況に対し、一定の行動をルールとして規定するものです。マニュアルは、一定の状況を定義しているので、それ以外の状況でも、クレドの価値観に沿って、自ら考え行動できるようになります。
クレドは「仕事のあり方」を、マニュアルは「仕事のやり方」を共有する。これが、クレドとマニュアルの決定的な違いです。(42ページより引用)

レシピ、レシピのレシピ料理人は、自身の料理を広げていく事ができません。
融通のきかないサービススタッフのほとんどが、マニュアル人間です。
音楽に関しても同じ様なことが言えます。

もう一度言います。
大切なのはクレド、必要かもしれないのがマニュアル、レシピ、楽譜、歌詞カードです。

 

【編集後記】

クレドを研究している友松です。
本日の清水先生のコラムはいかがでしたか?

う~ん。
私もクレドを知ったときは、クレドをマニュアルと思っていました。
ですが、クレドをマニュアルだと思って見たり、読んだり、実際に使ったりしてみることを想像すると、あんなに大雑把な使えないマニュアルってないですよね。

だって、細かいことは書いてないし、ほとんどのことは読み手に委ねられていますしね。
クレドはスタッフの価値観に働きかけるものだと紹介されていました。
価値観は人の思考の階層では上から2番目の位置にあると考えられています。
何をもとにして言っているかというと、NLPのニューロ・ロジカル・レベルというテクノロジーから引用しました。

思考や行動の階層ですが、
1.自己認識(セルフイメージ)
2.信念・価値観
3.能力
4.行動
5.環境

というように階層が別れていて、ニューロ・ロジカル・レベルの考えでは階層が上のモノが下の階層に影響を与えると考えられています。
さっき、クレドはスタッフの価値観に働きかけるとお話しましたが、ニューロ・ロジカル・レベルの2番の階層に働きかけることになるため、クレドがスタッフにも浸透すると職場環境がクレドに書かれたような環境に変化していくという仕組みです。

ちなみにマニュアルは、ニューロ・ロジカル・レベルの階層でいうと、4番の行動や5番の環境に入ってくると思います。
著者の職場がクレドを導入することで変わったことはとても素晴らしいことですが、このような仕組みが裏側にあったのだと思うと、どんな会社でもクレドの導入、浸透は可能であると強く思ってしまいますね。

 

《つづく》

 

記事を書いた人/清水健一郎

清水健一郎 ザ・リッツ・カールトン日本進出第一号ホテル、
ザ・リッツ・カールトン大阪のオープニングスタッフとして入社。身をもってクレドを実践する。

リッツ卒業後、数社のホテル、小規模飲食店をクレドによって立て直し、クレドがリッツ以外で経営に役立つことを証明する。
その後、オーナーサービスマンとして飲食店を開業。自ら経営者となる。

2013年に、これまでの経験を活かし出版した書籍が、ビジネス書では異例の2万5千部の販売を記録するヒットに。
失敗しない、小予算でできるクレド導入法を開発し、クレド導入を考える経営者や管理職の方へ無料レポートやクレド導入マニュアルを提供している。

 

編集/友松はじめ

勤務していた食品通信販売会社の業務に関連するセールスマーケティング書籍の他、心理学、自己啓発、加速学習等、あらゆるジャンルの本を1 日1~2 冊のペースで読むようになり、3,000 冊以上を読破。

本から得た情報を担当していたインターネット通販に活かし、売上げを月商数万円のレベルから月商1,000 万以上、年商1億のサイトに育てる

現在は、自身の経験を基にしたビジネス読書法講師、読書法を使った読書会ファシリテーターとして、活動中

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