著者:清水健一郎
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ザ・リッツ・カールトン・ベーシック10番

クレドを支えるベーシック

リッツ・カールトンのクレドに書かれていたベーシックに焦点を当ててみましょう。今は、バリューと名を変えて存在しているそうです。

私の在籍中には、クレドカードには、クレド、サービスの3ステップ、モットー、従業員への約束、そして、20個のベーシックが書かれていていました。

クレドカードの内容は、何度も何度も読み返しました。

もちろん、ラインナップ(リッツ式朝礼)の際に、読み上げて、読み上げたところについて、参加しているスタッフ全員でディスカッションしていましたが、この20個のベーシックの役割、書かれてある内容よりも、その奥にある意図を考えてみましょう。

今回、なぜベーシックが存在し、その意図を考えるに至った経緯は、クレドを作成するうえで、ベーシックはとても重要だと理解しているにもかかわらず、クレドが作れても、次にクレドを支えるベーシックを作る事に頭を抱える事が多いからです。

しかし、リッツのベーシックをお手本として、そのベーシックの意図を理解していけば、その意図に添ってベーシックが作られていくからです。

では、今日はベーシックの10に書かれている内容の奥にある意図を考えていきましょう。

 

ザ・リッツ・カールトン・ベーシック10番

10.従業員一人一人には、自分で判断し行動する力が与えられています。(エンパワーメント)。お客様の特別な問題やニーズへの対応に自分の通常業務を離れなければならない場合には、必ずそれを受けとめ、解決します。

エンパワーメントとは、自分で判断し行動する力が与えられているだけではなく、その際にかかる費用、具体的に私が在籍していた時は、1回20万円まで自由にスタッフの独断で使用できました。

世間にリッツ・カールトンのサービスが知れ渡ったキッカケの一つが、このエンパワーメントを使ったサービスでした。

例えば、宿泊された部屋に大切な資料を忘れた大学教授、その忘れ物を直接届けに新幹線に飛び乗ったハウスキーピングスタッフ(部屋の清掃スタッフ)のエピソードなどは、TVでも紹介されたくらいです。

レストランで泣き止まない小さな子供に、ライオンのぬいぐるみを独断でプレゼントして家族を笑顔にしたレストランのサービススタッフなど、お客様の特別な問題やニーズへの対応が、スタッフの判断で実行できるのは、このベーシック10があるからです。

そこで、私がよく経営者、現場責任者の方々から質問をいただくのは、なぜベーシック10番がリッツでは機能するのかです。

例えば、スタッフに20万円まで自由に使える権限を与えたことを良いことに、スタッフの友人がホテルに食事をしに来た時、そのスタッフの権限で20万円まで食事代をタダにしてしまう事や、スタッフの個人的な利益のために20万円が使われてしまう危険性がありませんか? と、質問されるのです。

もちろん、リッツでは問題ありません。

なぜなら、それもまたベーシック10番があるからです。

毎日繰り返されるラインナップでのディスカッションで、このベーシック10番、そして、エンパワーメントについても話し合われているからです。

 

「あなたは、エンパワーメントをどう考えていますか?」

「あなたは、エンパワーメントを使う際、どういった事を一番に考えてエンパワーメントを実行しますか?」

「あなたは、どんなサービスをエンパワーメントで実現させますか?」

「あなたは、エンパワーメントを使うべきではない。と、思う行動、サービスがあったら教えてください。」

 

よく、こんな質問が飛び交っていました。

そして、自分勝手なエンパワーメントの使い方などは、先輩、上司から正されていました。

その為か、数年前、私が同期のスタッフから聞いた際、大阪と東京のリッツ2つで年間の売り上げが何百億とあるなか、エンパワーメントが使われた金額が100万円ほどだったそうです。

ベーシック10番が、なぜ機能するのか、ラインナップでのディスカッション以外ない。

と、私は考えています。

ベーシック10番の意図は、リッツ特有のサービスを実現しようとしていたと思います。

社内だけでなく、業界だけでなく、一般の人々にも記憶に残る伝説のサービス、それを生みだすためのベーシック10番。

あなたの会社、あなたの職場以外に実現不可能な伝説的なサービスを、どう生み出しますか?

そんなサービスが生み出される際の諸刃の剣、どう対処しますか?

 

【編集後記】

クレドを研究している友松です。

本日の清水先生のコラムはいかがでしたか?

 

スタッフに1日20万円まで使う権限を与えるなんて、聞いて驚かない経営者は居ないんじゃないでしょうか?

従業員だって驚きますよね。私もはじめてエンパワーメント制度を聞いた時は驚きました。

この制度、不正の温床になりはしないかと。

 

今回の清水先生のコラムにも書かれていますが、エンパワーメントで使われた費用はそんなに多くないと言います。

それは、経費を節約しているからではないと思います。ちゃんと使うべき時に使っているのだと思います。

 

コラムを読んでいて、制度を作っただけでは、スタッフ個々人のモラルに頼るだけの制度になると思いました。コンプライアンス遵守なんて言われていますが、エンパワーメントは、コンプライアンスが簡単に崩壊しそうです。

 

でも、崩壊しないんですよね。

それはラインナップがあるから。

ここで、エンパワーメントについてディスカッションしているから、使うべき時、使わなくていい時、そのタイミングがスタッフの中に出来上がっているということですね。

 

いい制度を作ったとしても、ラインナップのような仕組みが無いと難しいと思います。

でも、逆に言うと、クレドを作って、ラインナップの仕組みを入れてさえしまえば、クレドがあっという間に定着して、会社の文化になるってことです。

すごいですね。

 

 

著者/清水健一郎

清水健一郎 ザ・リッツ・カールトン日本進出第一号ホテル、
ザ・リッツ・カールトン大阪のオープニングスタッフとして入社。身をもってクレドを実践する。
リッツ卒業後、数社のホテル、小規模飲食店をクレドによって立て直し、クレドがリッツ以外で経営に役立つことを証明する。
その後、オーナーサービスマンとして飲食店を開業。自ら経営者となる。

2013年に、これまでの経験を活かし出版した書籍が、ビジネス書では異例の2万5千部の販売を記録するヒットに。
失敗しない、小予算でできるクレド導入法を開発し、クレド導入を考える経営者や管理職の方へ無料レポートやクレド導入マニュアルを提供している。

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