クレドを持っていてもリッツみたいに機能しない。なぜ?
クレドが「考えて動く」社員を育てる!
-一枚のカードで成果を上げる「奇跡の改革」
日本クレド(株)代表取締役
吉田 誠一郎
今回の著書は、
「クレドが『考えて動く』社員を育てる!-一枚のカードで成果を上げる『奇跡の改革』です。
クレドを持っていてもリッツみたいに機能しない。なぜ?
「クレドが必要な理由③」
コミュニケーション不足を一挙に解消する
「クレドが必要な理由④」
最もコストがかからない社員教育ツール
リッツで働いた事がある人であれば、「ついにきた!」と言うところでしょうか。
しかも、働いたというのも社員だけでなく、派遣社員、アルバイトの方々も含めます。
今までコラムを読んでいただいた方々の一番の疑問は、
「なぜそんなにクレドは効果があるの?」
だと思います。
クレドを既にお持ちの会社の方々は
「クレドを持っていてもリッツみたいに機能しない。なぜだ?」
ではないでしょうか?
そして、前々から私が「クレドがあるだけでは意味が無い」的な事を言ってきました。
今回のコミュニケーションこそが、クレドを活かす唯一の方法であり、このコミュニケーションが無くてはクレドを持つ意味がありません。
それほど重要なコミュニケーションである「ラインナップ」を今回、ご紹介いたします。
私の著書にも書かせていただいております。
そして、リッツ関係の著書には必ずと言ってもいいほど、「ラインナップ」が書かれています。
ラインナップとは、毎日、就業前に行うミーティングの事で、よく一般企業の朝礼に近いものと思われていますが、中身は大きく違っています。
朝礼は会社、上司からのインフォメーション(業務報告)が中心なのに対して、ラインナップはインフォメーションから始まり、クエスチョン(質問)そして、ディスカッション(討論、議論)に至りますが、ラインナップの中心はディスカッションです。
クレドカードに書かれている内容は、サービス業に従事されていない方でも、一度読んでいただくとサービス業として当たり前の事が書かれていると感じるはずです。
例えば「お客様への心からのおもてなし」など、殆どの方が「当たり前の事だね。」と思われ、そこで考える事を終わられると思います。
「当たり前」と思われても実際、「お客様への心からのおもてなし」を分っておられる方は、実は少ないと思うのです。
「お客様への心からのおもてなしとは、具体的にどの様なおもてなしですか?」と質問され答えられる方はどのくらいおられるのでしょうか?
リッツでは、「お客様への心からのおもてなしとは、具体的にどの様なおもてなしですか?そして、どの様な事を実践していますか?」と質問します。そして、ラインナップ参加スタッフ同士で話し合います。
例えば、世界中のリッツで実践された伝説的サービスストーリーを「ワオ・トーリー」と呼んで全世界のリッツのラインナップでインフォメーションされます。
そして、ラインナップリーダーが「あなた達なら、この場合どんなアイデアを出しますか?どう実践しますか?」とクエスチョン、ラインナップに参加しているスタッフでディスカッションして、明確なアイデアを出し、各々の現場ですぐに使える様に変化させ、さらに進化させてしまう場がラインナップです。
私も在籍中にクレドカードに書かれた内容から、毎日1つの項目を読み上げ、質問をもらいディスカッションしていました。
例えば「今日は、ジェントルマンについてディスカッションします。
ジェントルマンとはどんな男性ですか?日頃、ジェントルマンになるために、どんな事を実践していますか?」時には総支配人や料飲支配人参加のラインナップで若いスタッフ中心に質問されました。
ディスカッションし、明確な答えを出します。
もちろん、答えは無数にあります。「心をこめたおもてなしとは?」「ジェントルマンとはどんな男性?」と質問する事で、日頃、取るべき行動が明確になっていき気が付けば、クレドを無意識に実践できるようになります。
クレドカードの内容を習慣化させたサービスマンのピソード
ここで、クレドカードの内容を理解し習慣化させたサービスマンのピソードをご説明します。
このエピソードは、リッツではめずらしく、お客様にNOを使って、感激、感動、感謝されたエピソードです。
私がロビーラウンジで働いていた時の話です。
ロビーラウンジの営業が終了して、掃除のために照明を明るくし作業にかかろうとしたその時、海外からの旅行客が団体でロビーラウンジ前に来られました。
日本について真っ先にホテルに来られたそうです。深夜とはいえ旅客機の中で睡眠を取っておられた様子で、「一杯でもいいからアルコールを飲みたい。そうでないと眠れそうにない。だか、営業が終了してしまっている。どうしよう?」と、いう感じでロビーラウンジを入り口から眺めておられました。
それを察したロビーラウンジの男性スタッフの若林さんは、躊躇することなくお客様をラウンジ内に案内し、お客様同士が会話しやすいようにテーブルとソファーを移動させ、女性スタッフは終電に間に合う様に帰らせ、照明を営業時に戻して若林さんと私とバーテンダーの檀上さんの三人で対応しました。
完全に3人はサービス残業ですが笑顔で接客し、スタッフの中心になっていた若林さんは、お客様にいつもよりドリンクのお代わりを伺いに行く回数を増やしました。
なぜなら、「一杯だけでいいから飲ませてくれないか?」と営業終了後のラウンジに来られたわけですから、私たちスタッフ側に気を使っておられ「営業終了後に来店して、お代わり頼んだら悪いな?」と思われている事を若林さんが察して、あえてドリンクのお代わりを伺いに行く回数を増やしました。
そうすると、お客様は「お代わり頼んでいいんだね。もっとラウンジでくつろいでいていいんだね。」と思われた様子でした。
なかなか頼みにくい事を先読みしてフォローしてくれるスタッフに感激されていました。
そして、若林さんにチップを渡そうとされた時です。若林さんは少し慌てた感じでゲストに対して、NOを使いました。
「NO Thank you!It’s My Pleasure(結構ですよ。それは、私の喜びです。)」
お客様は驚かれ更に感激されました。
今回のおもてなしでチップを断るスタッフ、
「本気で私達(お客様)を大切に思って対応してくれた。」
お客様はそう思われたのでしょう。
若林さんに対して、気持ちが治まらなかったようで、料理のお皿の下にこっそり高額なチップを置いて宿泊されている部屋に戻られました。
後始末をしている時、チップに気付き私達は驚きました。ここまでされてチップを返すのは失礼です。
今後の勉強の為、ロビーラウンジの貯金箱に入れて、皆で使わせていただきました。
このエピソードをクレドに当てはめて見てください。
クレド
リッツ・カールトン・ホテルは
お客様への心のこもったおもてなしと
快適さを提供することを
もっとも大切な使命とこころえています。
私たちは、お客様に心あたたまる、くつろいだ
そして洗練された雰囲気を
常にお楽しみいただくために
最高のパーソナルサービスと施設を提供することをお約束します。
リッツ・カールトンでお客さまが経験されるもの、
それは、感覚を満たす心地よさ、
満ち足りた幸福感
そしてお客様が言葉にされない
願望やニーズをも先読みしておこたえする
サービスの心です。
加えて、女性スタッフを先に返して男性スタッフだけでサービス残業と、いただいたチップを自分だけのものにしない若林さん「We are Ladies and Gentlemen Serving Ladies and Gentlemen」にもあてはまるエピソードだと思います。
心をこめたおもてなしとは?ジェントルマンとはどんな男性?と抽象的な質問をされても若林さんのエピソードを知っているスタッフなら明確に答えられると思います。
明確化すれば何でも分りやすく、サービスに限らず仕事というのは実践しやすくなります。
明確さは、行動の原動力になります。「それなら、分りやすい。僕でも(私でも)実践できる。さっそくやってみよう!」となります。
明確にしないと「上司から『心をこめたおもてなしをするように』と言われても、『心のこもったおもてなし』って、そもそもなに?」と頭を抱える従業員を想像するのは難しくありません。
行動を継続すれば、スタッフの力になり習慣になります。
この習慣こそ、スタッフの基準であり「あたりまえ」になるのです。
クレドカードから質問を貰い。明確な答えを貰い。実践する原動力を貰う。
明確さは、原動力です。継続は力です。習慣の質が結果の質になります。
著書の中に
ある企業のクレドには、「常に身近に存在するリスクに注意を払います」と書いてあります。たとえその文言を社員に100回唱えさせたからといって、リスク管理の姿勢が身につくと言うわけではありません。
まさにそうです。
そして、「コミュニケーション不足を一挙に解消する」にもいきません。
このように毎日、10分でもラインナップを実践している会社が、クレド効果を手に入れるのです。
その時、思うはずです。
クレドは、「最もコストがかからない社員教育ツール」だと。
著者/清水健一郎
清水健一郎 ザ・リッツ・カールトン日本進出第一号ホテル、
ザ・リッツ・カールトン大阪のオープニングスタッフとして入社。身をもってクレドを実践する。
リッツ卒業後、数社のホテル、小規模飲食店をクレドによって立て直し、クレドがリッツ以外で経営に役立つことを証明する。
その後、オーナーサービスマンとして飲食店を開業。自ら経営者となる。
2013年に、これまでの経験を活かし出版した書籍が、ビジネス書では異例の2万5千部の販売を記録するヒットに。
失敗しない、小予算でできるクレド導入法を開発し、クレド導入を考える経営者や管理職の方へ無料レポートやクレド導入マニュアルを提供している。