著者:清水健一郎
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私のようなサービス業は、様々なお客様にサービスをし、様々なことが起こります。
そして、基本的にサービスをさせていただいているときというのは、その時その時で「自分で考える」必要があります。

そこで問われるのが、「どういう基準で考えるのか」。
大きなポイントですよね。

今回は、「自分の常識で物事を考える事の不確かさ」を題材に、サービスを行う人間がどのように考えるべきか、ということをテーマにしてみたいと思います。

実は、この「自分の常識で物事を考える事の不確かさ」というのは、絆が生まれる瞬間(高野登氏著)の中に出てくるこの一節から考えたこと。

○肉○食 あなたは○の部分にどんな漢字を当てはめますか?
日本人は大半が、「弱肉強食」あるいは「焼肉定食」と答えるかもしれませんが、中近東で働く日本人ホテルマンなら、「豚肉禁食」と答えるのではないでしょうか?
客観的に見て常識だと思い込んでいる事が、実は主観的な認識である場合が多く、ホテルと言う舞台で仕事をする私どもが、つねに気をつけなくてはならないのがまさにこのこと。
自分のなかでの主観的なものであって、お客様の常識とは限らないからなのです。

この部分、読んでみると当たり前のことなんですが、実践の場で、となると、意外とできていないことも多いもの。

私にもそんな経験があります。

私がリッツ在籍中、実際に経験した中近東のお客様Mrアルトマンのサービスエピソードをご紹介します。

思い込みが「ずれ」を生む

中近東から一人のVIPが、リッツ大阪にチェックインされました。

彼はユダヤ教で、とても厳しい宗教の戒律があるとのこと。
焼物や銀は触れることはできず、レストランで常備している皿、フォーク・ナイフといった銀食器も使用できません。

食材も海老、青魚など特に豚肉、もし豚肉を食べさせてしまったら、その場で自殺されるか、食べさせた本人が殺される。と、ホテル全部署にインフォメーションされた書類に書かれていました。

そこで、私の勤務していたレストラン「スプレンディード」では、食器は紙皿、プラスチック製のフォークとナイフを若いスタッフが百貨店に走り用意して、Mrアルトマンに備えました。

それから数時間後、Mrアルトマンがスプレンディードに来店され食事を取られました。
リッツ・カールトンのレストランで、紙皿とプラスチック製のフォーク・ナイフで料理を召し上がられている姿は、少し奇妙でしたが、スタッフの心配りに感心され、とても満足されているようでした。

しかし、Mrアルトマンを接客していた私の先輩の鈴木さんが、とても興味深い事に気が付きます。

触れてはいけないはずの銀、そのために近くの百貨店でプラスチック製のフォーク・ナイフをスタッフが買ってきて用意していましたが、Mrアルトマンのメガネが銀縁だということに気付いたのです。

そこで、鈴木さんはMrアルトマンに聞きました。
返ってきた答えはというと・・・

「みんな、気を使いすぎだよ。でも、嬉しいよ。ここまでやってくれるなんて、さすがリッツ・カールトンだね。」

感謝してくださる素晴らしい方でよかったのですが、これは私たちの思い込みが招いたこと。
もし気を悪くされる方がいたとしても、それはこちらの責任です。

まとめ

高野氏は著書の中でこう言っています。

サービスはお客様の価値観を中心に最高のおもてなしを考え、提供すると言うのが基本です。そこに「これは常識だろう」とばかりに自分達の主観を押し付けてしまうと、それがたまたまお客様の認識とずれていた時には、場違いなサービスをしてしまうことになりかねません。

私たちの経験は、中近東、イスラム教、ユダヤ教の「これは常識だろう」といわんばかりのサービスになっていました。

この経験を通じて、私たちは、「お客様の持つ価値観を考えてサービスする」ということがいかに大切か、学んだのです。

そしてそれは、今の私のサービスや、クレドの提案にもつながっています。

お客様の価値観に沿ったサービスを提供する。
簡単なようでできていないこともあるこの原則ですが、しっかり意識して、より感動を生み出すサービスを提供したいものですね。

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