なんとかしろ! という指示は精神論 / 伝説の創業者が明かす リッツ・カールトン 最高の組織をゼロからつくる方法 ホルスト・シュルツ(著)
組織を磨く日々の努力
改善は現場の力で
今回の読書コラムの内容は、現場で起きている問題の改善について触れられています。
私は日本第一号のリッツ・カールトン・オープニングスタッフだったこともあり、新卒入社の若者にもかかわらずリッツを退職するまでの4年間たえず尽力してきたように思います。
それだけ、現場での改善を会社は重要視していたのだと思います。
そして、今回、シュルツ氏が紹介されている問題解決のエピソードも、アトランタのバックヘッドにある第一号のリッツ・カールトンでのエピソードです。
オープニングにさらに第一号とつくと、本当に現場には問題が山積しているようです。
それでは、シュルツ氏の説明とエピソードを、さらに深く私が経験してきたエピソードを交えて説明させていだだきます。
著書の中で紹介されている問題改善エピソードp167は、提供される紅茶が、どうしても冷めてしまう問題と、1つ200ドルもするティーポットの注ぎ口の破損が減らないという問題です。
そこで、まずシュルツ氏は冷めた状態で提供されてしまう原因を改善するために、現場におもむき
「私たちはお客様の期待に応えるだけでなく、それを上回るという高い目標にコミットしています。だから、アフタヌーン・ティーが冷めた状態で提供されてしまう原因を調べてみましょう」(167ページより引用)
と、現場スタッフに話したそうです。その要因としてシュルツ氏は
料飲部のマネジャーを呼びつけて叱ることもできた。
「なぜこんなことが起こるのかね?二度と冷めた紅茶をださないようにしてください」
そう言われたマネジャーは、持ち場に戻って部下たちに「なんとかしろ!」と号令をかけるかもしれない。しかし、そんなやり方では問題は解決されず、全員に後味の悪さが残るだけだったろう。(167ページより引用)
そして、シュルツ氏のもと、現場スタッフたちは、問題の根本的な原因を突き止め改善していきました。
紅茶がぬるいのは、ティーカップの配置場所が製氷機の上になるから、カップが冷やされていた事に気づき配置場所を変えることで、ぬるい紅茶を提供する事がなくなりました。
ティーポットの破損も洗浄機を使った洗浄の仕方が問題だと気づき、破損する注ぎ口にホースをカットして作ったキャップをすることで、破損がピタリと止まったそうです。
実際、私はリッツ・カールトン大阪のスプレンディードという地中海料理のレストランで、上司から何度も「なんとかしろ!」「気をつけたら破損はなくせる!」と言われた事があります。
しかし、問題はいっこうに改善されないままでした。
なぜ、問題が改善しないのか? という理由がわからないままで、精神論、根性論で「なんとかしろ!」と言われても、「頑張ります。」「気をつけます。」といった精神論、根性論でしか返せないのです。
そして、問題は改善されないので、上司からは「『頑張ります。気をつけます。』といっていたのに改善されないじゃないか!」とおしかりを受け、「頑張っているのですが・・・」「気をつけているのですが・・・」と言う返答しかできず、会社を辞めていく者もいました。
それに仮に若手のスタッフが改善点を見つけたとしても、上司に提案しにくい職場環境になってしまい、どんどん仕事が嫌いになっていきます。
つまり、悪循環を作ってしまうのです。
そんな職場環境で数か月過ごしましたが、問題が改善されなかったので、ついに会社は職場のマネジャーを替える決断をしました。
そこで、新たなスプレンディードのマネージャーは、職場の問題改善に取り組むのですが、新たに高額な設備を投入したり、優秀なスタッフを引っ張ってこずに、今ある設備、備品、今いるスタッフを使って問題改善に取り組み始めました。
大原さんは、問題点から担当を決め問題解決に取り組ませました。
ブリケージ(破損)担当者は、ブリケージレポートを作成ました。
そこには、本日のブリケージ数、今月のブリケージ数を提示する事に加え5W1Hでブリケージ時の状況を書き込みます。
Who 誰が? 清水が
What 何を? コーヒーカップを
When いつ? 朝食終了時の後片付け中に
Where どこで? 洗い場のシンク内で
Why なぜ(どんな目的で)? 洗剤で手を滑らし
How どうやって? カップ同士を衝突させ破損させてしまいました。
反省文も、すいませんや、これから気をつけますではなくて、具体的な改善方法を記入しなければなりませんでした。
例えば、コーヒーカップを重ねすぎてバランスの悪かった状態に、手を滑らせて落としたカップをぶつけて倒してまいました。
これからは重ねるカップは3個までにします。
これからは、手から滑らないように、カップの取手を持って洗うようにします。
このレポートのおかげで、月一回の会議でブリケージ発生の多い場所、時間帯だけでなく、その改善方法も発表する事ができるようになり、劇的にブリケージの数も少なくなりました。
このようにして、スプレンディードのあらゆる改善点は、一つ一つ明確にされ、担当者が責任を持って改善策を考え、職場に根付かせていき健康なレストランに成長していきました。
シュルツ氏はおっしゃいます
街で最高のティータイムを提供するというゴールから、片時も目を離さずに行動する。そのためには、何か問題が発生したとき、従業員に助けてもらって真の解決策をみつけなくてはならない。全員が高い規準にコミットし、その姿勢を強化し続ければ、会社はいつまでも前進するこができる。(169ページより引用)
リーダー一人が全てを抱え込んで頑張っても限界があるのです。
【編集後記】
今回の内容は個人的に共感するところが多かったコラムでした。
「なんとかしろ」
「ちゃんとやっといて」
と言って具体的な指示をしない上司のいかに多いことか。
私の会社員時代にもそんな人が多かった。
NLPにメタモデルというテクノロジーがありまして、カンタンに説明すると人の発言に曖昧な部分がたくさん含まれていて、それを見つけては、ほぐしてほぐして具体的にする。
そして話している相手も思考が整理されて、話を聞いている方も相手が何を伝えたいのかが具体的にわかり、ミスコミュニケーションが減るというもの。
メタモデル、やりすぎると詰問になっちゃうので注意が必要ですが…。
清水先生のコラムに登場する新しいマネージャーもメタモデル的な指示をしています。
内容が具体的になれば、改善を考えることができます。
この記事を書いた人
著者/清水健一郎
清水健一郎 ザ・リッツ・カールトン日本進出第一号ホテル、
ザ・リッツ・カールトン大阪のオープニングスタッフとして入社。身をもってクレドを実践する。
リッツ卒業後、数社のホテル、小規模飲食店をクレドによって立て直し、クレドがリッツ以外で経営に役立つことを証明する。
その後、オーナーサービスマンとして飲食店を開業。自ら経営者となる。
2013年に、これまでの経験を活かし出版した書籍が、ビジネス書では異例の2万5千部の販売を記録するヒットに。
失敗しない、小予算でできるクレド導入法を開発し、クレド導入を考える経営者や管理職の方へ無料レポートやクレド導入マニュアルを提供している。職場の信頼関係はクレドで作られる