著者:清水健一郎
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今回は、

書籍「リッツ・カールトンと日本人の流儀」
人を動かす「洋の言葉」と「和の心」

を元に、私清水の目線でそのエッセンスを抽出してお伝えしたいと思います。

本日は、第一章のリッツ・カールトンに伝わる「仕事の流儀」。

この第一章を読んでいると、リッツ・カールトンでしか学ぶ事ができない仕事への取組みの姿勢は、私にとって懐かしく感じます。

その中でも今回、私が惹かれたのは、著書の高野氏が「三方よし」をリッツ・カールトンの仕事の流儀に紹介されていたところです。

「三方よし」については、過去にも

改めて「三方よし」を考える。日本で大切にされてきた地域と企業のあるべき姿の「型」

にて触れましたが、簡単に言うと、この「三方よし」とは、私の地元滋賀県の近江商人の心得で、「売り手良し」「買い手良し」「世間良し」の三つの「良し」を指し。売り手と買い手がともに満足し、また会社貢献もできるのが、よい商売であるということです。

私がリッツ在籍中(二十代前半)には、地元とはいえまだ知らなかった心得であり、リッツのスタッフ間でも聞いた事のなかった「三方よし」と言う言葉が、高野氏が著書で解説することで、改めてリッツ・カールトンのスタッフのスタンダードになっていた事を知りました。

では、リッツ・カールトンの「三方よし」に焦点をあて、清水なりに「リッツ・カールトンの仕事の流儀」ご紹介させていただきます。

タクシー運転手さんへの素敵なストーリー

著書の中で著者の高野氏は、大阪駅から1メーターの距離にあるリッツ・カールトンにタクシーでご来館されるお客様とタクシー運転手の話を紹介されています。

タクシー運転手からすれば、1メーターの距離でお客様から一万円札を出されると、苛立ってしまう事もあります。

その為、リッツのドアマンたちは懐に千円の新札を十枚束で何セットか持っていて、タクシーで来館されるお客様をお迎えしながら、お客様が一万円札で支払をしようとすると、すかざず「両替をいたしましょうか」と声をかけ運転手さんに気を配ります。

そうする事で、運転手さんがリッツ・カールトンへ来る時の気分が変わり、「リッツ・カールトンは気持ちがいい」という運転手さんたちがホテルに「良い運気」を運んでくれるようになるのです。

そして、私清水もこの著書を読んで初めて知ったのですが、1997年のリッツ大阪開業時、大阪のタクシー会社の運転手さんを招いて、宴会場でランチ・パーティを開催したそうです。

しかも当日来ることができなかった運転手さんたちには、ホテルの地図入りのランチボックスを会社にお届けしました。

目的は、ホテルの場所を知っていただくことだけでなく、リッツにお越しになるお客様をご案内してくださるパートナーであるタクシー運転手さんにも、リッツ・カールトンのおもてなしの気持ちを伝える事が大切と考えての事だったそうです。

取引先の業者さんと関係を築くということ

この話を読んで私は、リッツ開業時の事を思い出し、おもわずハッと思い出した事がありました。

それは、オープン数日前の事、当時の私の職場だったレストランで、招待客を招いてのレセプションをおこなった時のこと。

招待されたお客様を接客していると、メニューを見るのも真剣、食べるのも真剣、食べた後のコメントも真剣な中年男性のお客様がおられました。

その方がお帰りになられる際に、力強く「清水君、がんばりや!」と。

それを聞いて嬉しくなった私は、同じ様に力強く笑顔で「ありがとうございます!」と、ちょっと、ホテルには似つかわしくなりほどの大きな声で御礼をしました。

そうすると、お客様は「よし!五つ星や!」と私に言っていただきました。

それから数日後、そのお客様とホテル館内で出会ったのです。
しかも、レストランのバックヤードでした。

なんと、その男性はリッツ・カールトンに果物を納入していた果物店の方だったのです!

「この前は、ありがとう。ホンマにお客様の様な対応してくれて嬉しかったわ。ここだけの話やけど、業者に対してこんな感じの良い会社、なかなかないで。」

それは、そうです。なぜなら、本気でお客様だと思って接客していたのですから。

とは言え、果物屋さんとわかっていても、「お客様」として対応していたのは、変わりませんが。

それから、この果物屋さんが納品に来られた際は、バックヤードにいるホテルスタッフ達に「美味しいアメリカンチェリーが入ったよ。一個食べてみ」と言って試食させてくださったり、当時、食材字辞典にも載っていなかった珍しい果物や新種の果物事を教えてくださる先生になりました。

そんなやり取りをする事で、知らず知らずのうちに、リッツのスタッフ達もリッツのパートナーである業者さん達も、もちろんリッツ・カールトンにご来館していただいたお客様も幸せになっているのです。

そして、お客様に対するおもてなしの気持ちもパートナーである業者さんが感じてくださるようになりました。

私がバックヤードで疲れた顔をして、ナプキンを折っていると、「元気だしや!若いのに、そんな疲れた顔してお客様に最高のサービスできんで!」と檄を飛ばしていただいた事もありました。

著書の中では、タクシー運転手というリッツのお客様に直接、接するポジションにあるパートナーさんを事例としてあげておられますが、実は裏方で協力していただいているパートナーさん達にも、同じような対応を当時のリッツ、当時の支社長の高野氏は行っていたのです。

まさに「三方よし!」

そして、2006年から日本赤十字と協働で、国内のホテルとしては初めて宴会場を使っての献血運動の大成功を実現させています。

「献血後にゆっくりと、お茶とクッキーを楽しんでいただけるのでは」との思いからだと高野氏はいいます。

この著書の副題名は、人を動かす「洋の言葉」と「和の心」です。

「ホスピタリティ」と「三方よし」が、コラボレーションした「リッツ・カールトンに伝わる仕事の流儀」。

この著書を読み進めていくたびに、私を育ててくださったリッツ・カールトンと「売り手」「買い手」「世間」に感謝せずにはいられなくなりました。

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